⑵「古典探究」の採録教材次に、「古典探究」における漢文教材の採録状況を見ていきたい。「古典探究」教科書11には、中国古典を含めた漢文教材が1,162点ほど採録されている。そのほとんどが、従前の「古典A」・「古典B」の採録教材と重複し、その大半を占めるのは中国古典作品である。首位は司馬遷の『史記』(約114点)で、第2位は「老子」(44点)、第3位は李白の詩と曽先之の『十八史略』(いずれも39点)と続く。「古典探究」で特徴的なのは、「言語文化」では採録がなかった司馬遷の『史記』が首位となり、曽先之の『十八史略』が3位になるという逆転現象が生じることである。これは、日本において『十八史略』が伝統的に初学者の入門書として広く読まれていたことと関連している。その一方で、本家の中国では『十八史略』の評価はそれほど高くはなく、教科書教材としてもほとんど採られていない。初学者向けの教材として『十八史略』が活用されてきたことは、日本における漢文教育の独自性の一つと言えよう。〈「古典探究」 日本漢文教材の採録状況〉1位 頼山陽 17点 『日本外史』 2位 菅原道真 12点 「不出門」5点、「聞旅雁」3点、「梅花」2点、「読家書」、「自詠」3位 夏目漱石 10点 「題自画」5点、「無題」など4位 正岡子規 8点 「送夏目漱石之伊予」5位 菅茶山 3点 「冬夜読書」 藤原公任 3点 『和漢朗詠集』 (中島敦 3点 「山月記」、「弟子」)8位 紀淑望「真名序」・絶海中津・義堂周信・荻生徂徠・広瀬淡窓 各2点新規に採録されたのは、中野逍遥の「道情」や、夏目漱石「題自画」(大正元年11月)等ごく少数で、それ以外は、従前の選択科目と重複する。しかし、直近「国語総合」採録の「日本漢文」は「兼山遠慮」(原念斎『先哲叢談』)10のみであったので、今回「言語文化」で約27点が採られたことは今次改訂がもたらした変革と言える。次に、「日本漢文」に限定して見ていく。ここでは111点ほどの採録が見られた。これらについても作者別に順位を示す。(一部、参考までに主な作品の採録数も示した。)以下、大江朝綱・貝原益軒・新井白石・服部南郭「夜下墨水」・大沼枕山・江馬細香「夏夜」・中野逍遥「思君」等1位は頼山陽だが、2位の菅原道真の漢詩は、『大鏡』(「左大臣時平」)に「九月十日」と「不出門」(第五・六句)が見える。これらを含めると25点ほどになる。新規で採録された作者は、紀淑望、藤原公任、大江朝綱、江馬細香などである。紀淑望は『古今和歌集』(「真名序」)の作者として2社2点の教科書に採録されており、同和歌集「仮名序」と共に、『詩経』(「大序」)との比べ読み教材として扱われている。比べ読み教材として漢詩が初めて採録されたという点では藤原公任と大江朝綱も同様で、両者とも『和漢朗詠集』を読む単元に載る。また、江馬細香の「夏夜」が採録されているが、女性の漢詩が採録されたのは、中国古典作品を含めても初のこと81
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