漢文教材に関しては「日本漢文」と併記して「近代以降の文語文や漢詩文」も取り上げることを求めている。つまり、近世以前のいわゆる古典の範疇である「日本漢文」に加えて、明治以降に日本人によって作られた漢詩や漢文も含めるということである。具体的には、森鷗外、夏目漱石、正岡子規、中野逍遙等の作品が想定される。以上を整理すると次のようになる。 2.「言語文化」と「古典探究」の特徴⑴「言語文化」まず、「言語文化」がどのような科目であるか見ていきたい。「言語文化」という科目名が示すように、上代から近現代に受け継がれてきた言語文化への理解を深めることに主眼を置く科目である。科目の目標は、「生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けること」と「わが国の言語文化に対する理解を深めること」(「学習指導要領」1「目標」⑴)である。どのような教材を扱うかについては、次のように示している。78従前、「日本漢文」は選択科目である「古典A」・「古典B」の教材に含まれていたが、共通必履修科目である「国語総合」では規定はなかった。それが今次、「言語文化」の教材として“必修化”したのは、「日本漢文」が日本の言語文化を学習する上で不可欠とされたからである。しかし「古典に対する学習意欲が低いこと」が指摘されている高校生にとって、これが古典学習の意欲向上に繋がるのかについては課題が残る。それは、漢文嫌いの根底には、「本来外国の古典である漢文を、なぜ、国語の授業で習わなければならないのか」という生徒の疑問が存在するからである。「日本漢文」の学習がこの疑問の答えとなるには、相当な工夫が必要であり、教える側にとっても困難な課題となっている。そもそも「古典嫌い」の生徒に対して、外国の古典である漢文を、日本の古典である古文の「書き下し文」を介して教えること自体が困難なのである。そこに、新たに「日本漢文」が加わるとなると、その位置付けや教材としての扱い方に戸惑うという声も挙がっている。では、「言語文化」や「古典探究」とはどのような科目で、どんな教材をどう扱えばよいのか。本論文では、各科目で育成を目指す資質・能力5を明確にし、それを実現させるための教材研究や授業の在り方について論じていく。 内容の〔思考力,判断力,表現力等〕の「B読むこと」の教材は,古典及び近代以降の文章とし,日本漢文,近代以降の文語文や漢詩文などを含めるとともに,我が国の言語文化への理解を深める学習に資するよう,我が国の伝統と文化や古典に関連する近代以降の文章を取り上げること。また,必要に応じて,伝承や伝統芸能などに関する音声や画像の資料を用いることができること。(4「内容の取扱い」の⑷のア)〇日本漢文上代以降、近世に至るまでの間に日本人がつくった漢詩と漢文とをいう。古典としての漢文に(以下、傍線は筆者によるものである。)
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