3.富山市内の公立小学校による「臨海教育」(1)臨海教育の概要、目的、参加児童の実際ばならないから斯る習慣を馴らした上に於ても是れ亦効果を認めた」と述べている。以上、附属小の臨海教育においては、水泳技術の向上や心身の鍛錬を主目的とする水泳練習や海浜での競技をプログラムの柱としていた。さらに、自然環境下での自由な生活を通じた自主的な学習、協働作業を通じた自治的生活の向上が目指されている点も特徴であった。このように、同校の臨海教育が、自然生活を通じた様々な体験の機会を活用し、児童の総合的な学びと成長を目指す実践であったことは、その主たる活動の内容や成果報告からも裏付けられるといえる。本節では、富山市内の各公立小学校が合同で実施した「臨海教育」について考察する。資料としては前節と同じく主に『富山教育』第94号掲載の記事を参照して実際をまとめる。はじめに、市内小学校による臨海教育の概要を確認する。市内小学校の臨海教育は、1921年8月2日から11日までの10日間にわたり、氷見郡太田村の太田村小学校を宿舎として開催された。この臨海教育は、富山市内の全小学校8校が連合して実施したものである。参加した小学校は、総曲輪小学校、西田地方小学校、星井町小学校、愛宕小学校、五番町小学校、清水町小学校、八人町小学校、柳町小学校の8校であった。また、各小学校の児童は、総曲輪小・西田地方小を緑組、星井町小・愛宕小を赤組、五番町小・清水町小を青組、八人町校・柳町校を黄組と合計4組に組織されている。報道によれば、「富山市教育会主催に係る臨海教育」とあり、富山市教育会が主催し、市内の各小学校が参加したと考えられる63。開催時期を見れば、附属小学校の臨海教育終了後すぐに開催されており、また宿舎も同じ太田村小学校を利用していた。記事には「其他附属小学校の設備を多少改造して使用した」とあるほか、新聞でも、当初は呉羽山の東西に各1ヶ所ずつ設置する予定であったが、県の補助費150円のほかは、市として「経費の支途に苦しみたる」とも報じられている64。同じ新聞記事によれば、師範附属小の設備を充当できないか市校長会から附属小に照会したともあり、附属小が設置した設備を利用する形で、経費を安く抑えて実施する計画であったと考えられる。市内小学校が連合して臨海教育を実施した目的については、「児童の健康増進を期し、兼ねて規律正しき生活に慣れしめ、自然を愛するの美感を養ふにあり」と報告されており、主に児童の健康増進、規律正しい生活の実現、美感の養成などを目的としていた65。臨海教育に参加した児童はどのような児童だったのであろうか。報告によれば、参加者は各小学校の5・6年生児童合計31名であった。募集時には定員の40名を10数名超えたと報道66されていたが、選抜により31名に絞ったと考えられる。また、各小学校から2〜6名ずつの参加者であり、初めての試みということでごく限られた児童が参加していたといえる。参加費用は附属小と同様の7円であり、高額の費用がかかった。この事から、附属小と同様に比較的に富裕層の児童が参加したと考えられる67。また、報告には、参加者の児童は「比較的薄弱なものを選抜」68したとの記載があるので、一定数の虚弱児童が参加した可能性もある69。(2)臨海教育の活動内容、成果市内小学校の臨海教育の活動内容は表2のようであった。表に示したように、水泳の練習を柱67
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