早稲田教育評論 第37号第1号
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66 電灯の光に照し出された卓の上のお菜皿、七十餘人が夫々定めの席へつきました、先生もお客サンもご一緒に─「おあがりなさい」と皆一同お辞気をしてお箸をとります、お櫃の近くに席を占めた者は遠い所の者のご飯をよそツてあげますと、その飯盛の者は亦、お汁鍋に間隔があるので、鍋に近い人から汁を汲ンで貰へます、斯くて各自のお口は相霑いるのです、一日の面白かつたことどもを共に語りながら、ご飯は極ゆツくり食べますが、すンだらグスグスしてゐませんテンでにお茶碗やお皿を洗つて来て、卓中へ、布巾を掛けて始末をします、また、『富山教育』の記事では食事の献立も報告されているが、カロリーや栄養価などは掲載されておらず、主に準備の参考とするための金額が掲載されている。また、間食の内容もせんべいやビスケットなどの菓子類であった。虚弱児童向けの「林間学校」では、カロリーや栄養価に留意した献立や、間食で牛乳を提供するなど栄養の補給が推奨されたが、そうした性格は強くなかったといえる。その他、期間中の行事として、雨晴遠足、島尾遠足、お話会、引網(試食会)、國泰寺遠足、スケッチ展覧会、茶話会などが実施されるなど、児童の生活が単調とならないよう工夫していた59。(3)「林間学校」の成果報告臨海教育の成果としては、先の水泳大会における児童の達成状況の報告に加え、実施後に2回健康状態の調査を実施し、結果が報告されるなど、主に身体的な成長に注目していた。具体的には、実施から11日後の8月11日、さらに10日後の8月21日に、体重や体温、脈拍の調査を実施している。体重を例に取れば、第1回目は45名の児童が参加し、男児は体重増33名、体重減3名、女児は増12名、減5名、男女45名の体重の総増加量は9,321匁、平均207.13匁(約780グラム)であった。第2回目は、48名の児童を対象に計測がなされ、男児は体重増31名、体重減1名、女児は増13名、減3名、男女48名の体重の総増加量11,666匁、平均378.64匁(約1,420グラム)であった。報告では「何れも良好」としているが、短期間の調査のため参考として付すとしている60。その他、記事中では、児童の体験的な学習の実現や、児童と教員の交流が促進された点も成果として挙げている。また、臨海教育の成果は、新聞でも報道された。たとえば、山崎学校衛生主事の談話として、多いものは350匁、少ない児童でも100匁ほど体重が増加したことが報じられた61。ただし、実施期間については改善の余地があったようで、山崎は、「期間は少くとも三週間位継続したならば立派な効果を挙げるであらうと今更期間の短かつた事を悔やみます」とも述べている。期間の短さを課題としたこと、また、3週間以上を理想と考えたことが分かる。『高岡新報』でも、山崎の談話として「十日間の臨海教育の結果各児童の体重が平均二百匁増加した」ことを報じ、「附属小学校の児童は高級官吏、富豪等の上流家庭の子女が多く普通の小学校の児童に比せば体質は余り良くないのが多いから此体重の増加は全く適當の運動に依る効果である」として臨海教育の意義を主張した62。さらに、海水浴で風邪を引いた者がいなかったことを根拠に、児童の皮膚が鍛えられたことや、食欲が増進したことも強調された。加えて、食器を自ら洗い、衣類も自ら洗濯したほか、日用品の管理も行うなど、規律的生活が実現できたことも主張し「平素の食器を洗つたことが無く身廻りは女中や書生委せにしてゐた児童には多少苦痛であつたであらうが遣らね

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