アディスアベバ会議の最終報告書によれば、アフリカの教育主導者たちの二つ目の大きな需要は、「自身の地域の社会経済的需要にあわせて教育形態や制度を方向転換すること」であるという27。また、彼らは、「あらゆるレベルの教育において、またあらゆる可能な手段で、自国の文化に適切な重点を置くことを望んでいる。アフリカの学生たちは、外の世界の科学的、文化的側面にさらされるため、自分たちの文化的遺産についてのしっかりとした知識を身につける必要がある。アフリカの未来の市民のための教育は、近代的なアフリカの教育でなければならない」と記されており、アフリカの教育担当者によっても、教育内容にアフリカの文脈を加える必要性が認められていることが言及されている28。しかしながら、「自国の文化に適切な重点を置くこと」が望まれるとはいっても、アフリカには多様な民族や言語が存在しており、特定文化のみを教育内容に組み入れることは困難である。アディスアベバ会議での討論のために事前に用意された背景報告書のひとつに、オート・ボルタの歴史家キ=ゼルボ(Joseph Ki-Zerbo, 1922-2006)による「アフリカにおける教育内容」と題された文書がある29。それによると、例えば言語に関しては、現実的な問題として、アフリカで話される言語が多様であること、また、書き言葉としての科学的変換がなされていないこと、文学作品に乏しく国際的な言語としての地位を持たないことから、ほとんどのアフリカ諸国が、旧宗主国の言語を公用語とせざるをえなかったことが述べられている。このため、アフリカの言語を教育現場で使用するためには、まず、言語についての研究 おける前提条件、成人教育などの幅広い問題を議論するためのパネルも設置された23。アディスアベバ会議では、各地域の経済的・社会的需要に合わせて教育形態の再編成を加速させること、また、性別や社会階層に関係なくすべての人が教育を受けられるようにすることが全会一致で合意された。さらに、教員の給与、新しい建物の建設、教科書や教材の作成・供給などの費用を拡大する必要性が議論された。同様に、インパクトのある教育を行うためには、設備やインフラの整備、教員への十分なトレーニングが不可欠であることも論じられた24。最終的には、教育を通じて経済・社会の発展を図るための雛形として、「アフリカ教育開発計画の概要」が発表され、アフリカ大陸での教育開発のための短・長期的な実験的計画が採択された25。教育の長期的(1980年までの20年間)目標として、①初等教育の完全無償義務化、②初等教育修了者30%への中等教育の提供、③中等教育修了者20%に対する主にアフリカ内での高等教育の提供、④教育の質の向上が挙げられた。また短期的(1965年までの5年間)目標として、①初等教育入学年齢児の入学率を年5%ごと向上させること、②中等教育学齢生徒の就学率を3%から9%へ改善させること、③教員研修に注意をはらうことが定められた。また、同会議で議論された、「アフリカの経済・社会発展のための教育ニーズの確認」の決議24においては、カリキュラムや教材に関して以下のように述べられている26。 アフリカにおける教育の拡大と近代化および教員のアフリカ化(Africanization)は急務であり、そのためにカリキュラムや教材をアフリカの事情や関心に合わせたものにするという大きな課題がある。これは、すべてのレベルの教育において、生徒の身近な環境と照らし合わせ、彼らの文化的歴史を反映した教科書や教材を開発することによってのみ実現される。46
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