早稲田教育評論 第37号第1号
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Rが語ったように、現在の中国においては、子どもが生まれた後「月嫂」を1ヶ月か2ヶ月ぐらい雇ってから、子どものケアと自分の産後ケアを指導することが普遍的に見られる。「月嫂」は、育児に関わる専門性と経験の両方を持つため、「科学的育児」規範が流行している現代中国においては、広範囲に受容されている。Mは、息子が生まれた後、158日の産休が終わった後すぐに復職した。現在、自分が仕事に行く時間には、祖父母からの子育て支援を求めている。しかし、Mはインタビューの中で、現在の子育てに不満と矛盾があり、自分の手で子どもを育てたいと語った。嬰師』になるためのクラスに参加し、『育嬰員』の資格を取った。『育嬰員』になるための授業にすべて参加し、専門家が教えてくれた育児の知識もいろいろ勉強した。(中略)しかし、子どもが生まれた後は全然違った!理論と実践はまったく違う!今は、育児書を色々読んでいて、子どもに合わせた子育ての方法を探している。(中略)『月嫂』は絶対に必要だ!子どもが生まれたばかりの時に、本当に何もわからなかった。『月嫂』はやはり専門性と経験があるので、育児の最初には役に立つ。」(R)しかしながら、「科学的育児」規範の下で、「どのような育児方法が一番科学的なのか」について迷い、そこから生じる育児不安も見られる。子育て情報を得るために、Qは現在、中国国内の育児書や海外の育児書、そして、マスメディアから発信された育児知識を読んでいる。彼女は、以下のように語った。「今、『崔玉涛育儿百科』や『程序育儿法』『美国儿科学会育儿百科』などの育児書を読んでいる。そして、マスメディアから発信された専門家の講座なども時々見ている。さまざまな育児法があるので、私たちは、1人の専門家を信じるだけではなく、色々な育児知識を把握した上で、自分の子どもに合わせた教育方法を選ぶ。しかしながら、知識が多いほど、不安も多くなる。一体どのような養育方法が自分の子どもに一番適切なのか、分からなくなってしまう。」(Q)育児の母親中心化が進む現代中国においては、「良い母」規範の下で、完璧な育児を目指している現在の母親にとって、育児情報をいかに選択し、活用するのか、そこから生じる一種の育児不安も見られる。④ 仕事優先か育児優先か:「スーパーママ」母親規範から生じる二重負担「スーパーママ31」像の流行に伴い、母親役割に対する期待が重層し、子育ての責任が大きくなっている現在の中国の母親にとって、仕事と育児のバランスを取ることには大きな困難が伴う。今回の調査では、Qを除いた5人はすべて、職業を持つ女性である。しかし、職業を持つ女性の中でも、育児優先か職業優先かといった矛盾を持つ女性が存在した。「私はずっと自分の手で息子を育てたいと考えている。しかし、もし自分で育てたいと、33

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