早稲田教育評論 第37号第1号
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おわりにために、日照市教育局は2021年に、「日照市小中学校教員の情報技術応用能力向上のためのプロジェクト2.0実施方案」を公布した。この「実施方案」では、全市の小中学校の教員に、50時間の研修活動を受けさせ、そのうち、実践活動の時間は少なくとも50%以上を保証しなければならないことが明記された。また、2020年、新型コロナウイルスの感染拡大時期に、日照市の経済開発区の教育管理センターと科学研究センターは、小中学校に対して、遠隔授業の実施方案とスケジュールを作成し、名人教員によるオンライン授業を「空中課堂」を通して提供している。基本の授業内容以外に、心理健康教育、防疫と生活などの授業もあった。そして、教育科学研究センターは、各学級の特徴にふさわしい課程指導案と新学期の導入案、授業のビデオ、マイクロコースなどの教育資源を各学校に提供した。各学校は、Wechat、QQなどを活かしてオンライン授業を展開していた31。このように、教員たちはICTを活用することによって、授業を継続することを可能にした。 5.結果分析日照市の小中学校におけるICTの活用実態に関する調査に基づいて、以下の四つの課題が浮かび上がってきた。第一に、ICTの整備状況による教育格差である。都市部と農村部の間のみならず、都市部の発達した地域と立ち遅れた地域の間にも、格差が見られた。ICTの整備状況が異なっているため、各学校で実施できる授業も異なっている。都市部の発達した地域では、ICTの活用状況がより活発化になり、授業の形式も多様化している。第二に、ICTに関する研修活動の適切性である。教員が日常の授業、学生管理と学校教務に詰め込まれる多忙化に直面する状況を考える上で、研修の時間、場所、内容、形式などについて工夫しなければならない。第三に、オンライン授業への懸念である。オンライン授業は特殊時期への応急処置として、大きな役割を果たしているが、長期的に見れば、オンラインでは、教員が学生の学習状況を全面的に把握することが難しい。また、学習効果は、保護者の支援や監督状況によってかなり異なっている。第四に、学生と保護者に向けたICT活用の指導である。自分自身をコントロールする力が弱い学生にPCなどを適切に使用させるように指導することが極めて重要になっている。ICTの設備を知識学習の道具としていかに活用するのかを工夫しなければならない。つまり、学生と保護者に対するICT活用の指導、とりわけ情報モラルへの配慮を強化しなければならない(分担執筆:劉琦)。本報告においては、ICTを活用しながら「公正で質の高い教育」の実現に向けていかに取り組むべきかを、日本および中国の事例調査から検討することを課題として設定してきた。本報告の第一部でとりあげた東京都荒川区は、ICT教育の推進に早期から取り組んできた自治体の一つである。また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う登校停止の中で、オンラインを活用しながら、授業に取り組んできた。本報告では、S中学、K中学、S小学校、O小学校におけるヒアリング調査を元に、ICTの活用に関する実態と課題を明らかにしてきた。調査した時点においては、タブレットPCの活用が活発に行われ、教員によるICTを活用した授業研究も熱心に取り組まれていた。また、ICT教育を進めながら主体的で対話的な深い学びの教育を実現するためには、キーパーソンの育成がきわ191

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