五、安徽省蕪湖市の小中学校におけるICT教育と教員研修の現状 1.調査概要会全体に共有している。ICT教育の効果を最大限にするために、中国の学校は様々な工夫をしたと実感した。一方、都市部の学校にしても、8割以上の生徒は端末を持っていない。プログラミング教育などを受けられる生徒はさらに限られている。義務教育段階にも関わらず、優れた教育資源は少数の生徒しか利用できないのが現実である。教育格差が生じる原因は、授業の内容だけではない。都市部のように豊かな学校生活を送り、家庭への適切な支援を行い、様々な社会団体と連携して教育活動を行うことは、今の農村部では実現できない。そのため、中国社会に存在する教育格差は、ICT教育の推進と共に、①質の高い教育資源を農村部に送ることが可能となり、教科教育から見ると、その格差は解消していくと思われる。一方、②成長の土台である生活経験の格差はむしろ拡大していると思われる。このように今の段階では、ICT教育活用は教育格差を解消できるとは断言できないが、教科教育などから、その格差が解消していく可能性があるのではなかろうか(分担執筆:万静嫻)。本研究の調査地域は安徽省蕪湖市である。蕪湖市は中国の東部に位置する都市である。『蕪湖統計年鑑』(2021年版)24によると、2020年末段階で、蕪湖市の総面積は6,026平方キロメートルであり、総人口数は388.5万人である。都市部在住者の年平均収入は44,588元であり、全国の平均レベルを占めている。また、蕪湖市にある教育機関は、高等教育機関10校、中学校、高校は合計211校、小学校267校、幼稚園576校がある。初等教育の入学率は100%に達している。蕪湖市には、6市轄区、1県級市と1県を管轄する。6市轄区は鳩江区、鏡湖区、弋江区、経済技術開発区、湾沚区、繁昌区である。1県級市は無為市であり、1県は南陵県である。今回の調査で取り上げたのは鏡湖区である。鏡湖区には小学校24校、中学校9校がある。教育の質は市内で一番高く、2021年には、「安徽省特級教員」入賞者は3人であり、「骨幹教員」入賞者は11人である。また、鏡湖区は、周りの県や村の学校との教育格差を縮小させるために、区内の優れた教員を周りの村や県に派遣することによって、農村部の教育の質の向上に積極的に取り組んでいる。そのため、本研究では、鏡湖区内の学校における①教室でのICT環境の整備、②教育プラットフォームの開発と整備、③教員のICT活用指導力に関する研修、④ICTを活用した授業づくりの現状、⑤ICTを活用することで地域間の教育格差を縮小させることという五つの項目から、蕪湖市鏡湖区の実践を考察してみる。調査方法について、蕪湖市鏡湖区「電化教育館25」の教育研究員であるA先生と区内のICT活用指導力養成の担当者、M中学校の英語教員であるB先生に半構造化インタビューを行った。調査を実施した時期は2021年の7月である。 2.調査結果 (1)教室でのICTの整備状況鏡湖区の全ての小中学校には、デジタル黒板、プロジェクターとプロジェクタースクリーンが整備されているが、B先生が所属する中学校では、理科の授業での使用のためにホログラフィー187
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