早稲田教育評論 第37号第1号
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四、江蘇省連雲港市の小中学校におけるICT教育と教員研修の現状 1.調査概要江蘇省は伝統的に教育程度が高く、人材豊富な省として知られている。ICTの活用が提唱されている現在、江蘇省の教育情報化総合発展指数は全国の第3位である。本調査では、江蘇省の連雲港市にあるM校とC校という2つの小学校のICT活用状況を調査した。M校は60学級、児童数は約2,800人である。C校には2つのキャンパスがあり、合計157学級で児童数は約8,500人である。日本よりもはるかに児童数、学級数が多いマンモス学校である。M校は2019年に江蘇省の「智慧校園」(ICT活用の模範校)に選出され、C校は2020年に「智慧校園」に認定されたことから、調査を行った。 2.調査結果 (1)学校におけるICT環境の整備と授業づくり以上の事例からみると、江蘇省の小学校はICTを活用しながら多彩な教育活動を行っている。しかし教育先進地域にも関わらず、デジタル端末を持っている生徒の割合は低く、約8割以上の生徒はデジタル端末を持っていない。例えば、江蘇省「智慧校園」のC校は、120台のタブレットPCしか保有していない。タブレットPCの使用は公開授業のみであり、普段使いはまだできていないのが現実である。 (2)「停課不停学」政策下の授業づくり2020年1月29日、中国教育部は「停課不停学」という方針を打ち出した。家でも質の高い授業を受けられるようにするため、各地域では独自の教育プラットフォームを開通した。連雲港市は「雲海在線」という教育プラットフォームを作成し、市内のベテラン教師の授業を多く掲載している。プラットフォームを通して、生徒たちの誰もが平等に質の高い授業を受けられるようになった。また、この教育プラットフォームの受講は、パソコンやタブレットPCなどの端末のみならず、テレビからも受講できる。インターネットの環境が整っていない家庭でも、テレビさえあれば、家で質の高い授業を受けることが確保された。さらに、コロナ感染期間中の授業づくりにおいては、教員たちの工夫が見られた。教科別で、185ICT環境の整備については、2つの小学校ともデジタルサイネージなどを設置している。生徒の出席や、1日のスケジュールなどがデジタルで操作できる。デジタルサイネージには学校の紹介などが載っている。また教室においては、タブレットPCや電子黒板、3Dプリンターが導入された。ICTを活用した授業づくりについて、写真やビデオ録画で理科の実験経過を記録することもあったが、パワーポイントを使いながら授業を行うのが最も一般的である。2つの小学校とも宇宙ステーションに滞在中の宇宙飛行士による特別授業が開講された。約1時間の授業の中で、細胞学や人間の動きなどの実験が行われた。それ以外でも、学校は地域の博物館との連携などの活動も活発に行っている。また、小学校ではICT技術を活用して国際理解教育を行った。例えば中国の端午節に、C校はオーストラリアの小学校とオンライン交流会を開催した。中国の伝統衣装を着たC校の生徒たちは、中国の伝統楽器を演奏し、端午節の定番の食べ物である「ちまき」の由来を英語で紹介したという。

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