三、上海市の小中学校におけるICT教育と教員研修の現状 1.上海市における教育情報化の施策2016年12月、上海市教育委員会は「上海市教育情報化“十三五”発展計画」(「上海市教育信息化“十三五”发展规划」)を公布した。同計画では、“十二五”期間(2011〜2015年)の教育情報化の発展状況に関して、以下のようにまとめている。上海市のほぼすべての学校(農村部を含む)にインターネット環境が整備され、各区(県)、学校の特色のあるデジタル教育資源センターとデータベースが基本的に構築された。また、デジタル化教材の編成と学習のプラットフォームの建設が進められた。一方で、“十三五”期間の発展の方向性に関して、情報技術と学校教育の融合を通して学習方式の変革を促すという目標が提起された。具体的には、教員の授業実践をサポートするデジタル教材、教育資源の共有のシステム、オンライン評価ツールの開発を進めると同時に、児童生徒が自主的に学習する機会を提供するプラットフォームの充実を目指すことが強調された。教員の情報リテラシーに関しては、ICTを用いて、児童生徒の学習状況を管理・分析し、児童生徒に個性化した学習を提供し、創造的に授業を展開していく能力の育成が強調された22。 2.調査方法と調査対象上海市は教育情報化の先進的な地域であり、教育情報化総合発展指数は全国1位である。本調査では、上海市金山区Q小学校と上海市閔行区浦江鎮P中学校の二つの学校の取り組みを調査した。Q小学校は区の「教員の情報技術を活用する能力の向上に関するプロジェクト2.0」の研究指定校であり、P中学校区の科学技術特色学校に指定されたため、モデル事例として取り上げる価値があると考えられる。調査方法として、2022年6月23-24日の二日にわたって、Q小学校の校長とP中学校の情報技術科目を担当する教員を対象にインタビュー調査を行った。Q小学校は2022年5月現在、28学級を有し、児童数は約1,120名、教員数は約84名である。なお、P中学校は、2022年5月現在、22学級を有し、生徒数は約900名、教員数は約87名である。 3.調査の内容と結果 (1)ICTに関する教員研修近年では、教員の情報リテラシーに育成が重視されているため、上海市では、市レベル、区レベル、学校レベルで、ICTに関する教員研修が実施されている。Q小学校とP中学校の教員は、市(区)レベルの研修において、自ら情報技術の研修科目を選択し、一年を通して24回を受講している。研修内容は、ICT設備、電子機器の操作及びPowerPoint、TIKTOK、動画を含む学習資料の制作などがあり、技能テストに合格することが求められている。また、区教育研究院が組織する技術交流の勉強会に教員が自主的に参加している。学校レベルの研修として、P小学校とQ小学校ともに、電子機器や教育プラットフォームの使い方などを含む基本的なICTスキルに関する研修を定期的に実施している。また、毎週の校内研究会では、ICTツールの活用・導入と学習効果などについて教員の間に情報交換を行っている。 (2)学校のICT設備環境Q小学校とP中学校共に、タブレットPC、コンピュータルーム、電子図書館、高速ネット通信環境(1Gbps)、電子黒板を整備している。小学生の視力問題を配慮し、Q小学校は電子書籍183
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