早稲田教育評論 第37号第1号
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S小学校は、2014年に他の東京都の地域に先駆けていち早くタブレットPCを児童に配布する取り組みを開始し、児童一名に1台のタブレットPCが配備されている。S小学校は、教室と廊下の間に壁がないオープン形式の教室環境で授業が行われている。教室と連続したオープンスペースにタブレットPC用の充電保管ラックが配置されており、授業の前後に児童が出し入れしやすい配置になっている。コンピューターを特別なものとして扱わず、日常的に情報技術を活用できる環境を整えることが重要であるとの認識をもっており、共有スペースや図書館で自由に端末に触れることができるような環境作りを目指している。また、児童に貸し出すタブレットPCのほか、電子黒板や、デジタル教科書を活用している9。S小学校は、2020年度・2021年度の荒川区教育委員会教育研究指定校であり、「自ら課題を見付け解決する児童の育成」および、「目的に応じた情報活用能力の育成」を目指して、情報教育の研究を行ってきた10。実際の授業では、プログラミングに関する教育も意欲的に導入しており、総合的な学習の時間やパソコンクラブで、プログラミング教育を実施している。3〜6年生の総合的な学習の時間では、LEGO WeDo 2.0というロボット教材を使用し、現実世界の物を動かすためのプログラミングの学習も取り入れている。二、学校教育におけるICTの活用た研修を実施することも目標としている8。さらに、タブレットPCの全校導入に伴い、企業のSEや大学の講師を「ICT支援員」として学校に派遣している。派遣依頼を受けた「ICT支援員」は、タブレットPCや周辺機器の保守、トラブル対応、タブレットPCを活用した授業実践や教材作成についてのアドバイスを行っている。このように荒川区では、ICT機器の導入と同時に、機器活用の考え方に関する指針の取り決めや、支援員の派遣など、積極的にICT機器を活用していくための体制を整えてきた。本研究では、荒川区の小学校2校と中学校2校を訪問し、ICT教育の実践状況について見学させていただいた。各校の取り組みに関して、学校のICT設備環境、ICTの活用に関する考え方と授業づくり、ICTを活用した生徒の個別指導、ICTの活用による学校業務の改善という4つの観点から報告する。 1.S小学校また、特別支援学級では、デジタル教材を導入したことにより、各人のペースで学び、自習することがより容易になり、ICTの導入が個別指導に役立てられていることが観察された。見学に参加した中国人院生によれば、中国においては、ハンディキャップを持つ児童・生徒に対するICT教育は立ち遅れているため、S小学校の組みは印象深いものがあったようである。178ICTを活用した児童への個別指導として、S小学校では、wifiの接続方法や学習アプリへのログイン方法、ルールや注意事項などが記載された「オンライン学習マニュアル」を作成し、各家庭に配布することで、インターネットへの接続やタブレットPCの操作に不慣れな家庭や児童に配慮している。ICTの活用による学校業務の改善に関しては、授業研究においてGoogle Jamboardやスプレッドシートを活用したことにより、立場に関わらず意見を出しやすく、また記録としても残しやす

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