おわりに なりたいと決意しました。先生になったことで、次世代への民族教育の重要性をさらに意識し、自分の責任感も強くなったと思います」と述べた。香は自分の親世代が朝鮮語を維持してきたように、自分の子どもにも民族言語を維持・継承させようとしている。彼女の話からは、週末学校の先生になったのは、朝鮮族移住一世と二世の文化断絶への憂慮を契機としており、まさに子どもの民族アイデンティティの構築を促すことを目的にしていることが読み取れた。香以外にも、自分の子どもを週末学校に通わせる対象者は6名いる。その理由について、鋒は「妻は漢民族だから、息子の朝鮮語は自分が教えなければなりません。でも、私の仕事は忙しくて、なかなか教える時間が取れません。しかも教えてみたが、あまりうまく教えられませんでした」と答えた。海は「最初、娘は興味がなかったのですが、朝鮮族同士が集まる学校で民族言語を勉強し続けることによって、自民族の良いところと悪いところを知り、自民族へのプライドも高めることもできます。そして、週末学校のイベントも非常に多いです。例えば、キムチ作りや海苔巻き体験とか、朗読会とか、卒業式また運動会などがあります。娘はとても楽しんでいます」と語った。以上の事例から、対象者は家庭教育を通じて、意識的に子どもに朝鮮語を習得させようとしているが、学習の効果は高くなく、系統的に勉強できる環境を確保するため、自分の子どもに週末学校のような専門的な教育機関に通わせていることが分かった。このように、週末学校において、通常の言語授業のみならず、さらに学校のイベントを通じて、民族文化を子どもたちに体験し、実践させることで、より民族言語を身に付けさせている。本研究では、北京へ移動した朝鮮族の文化変容、それによる言語教育戦略の実態を、当事者へのインタビューから検討した。上記の分析により、本研究で得られた考察を以下の二点にまとめる。第一に、世代間で使用する言語に変化が生じていることが明らかとなった。家庭内の使用言語について、非伝統的居住地域への移動により、調査対象者が祖父母・父母世代との間で使用する言語は朝鮮語を中心としているのに対して、配偶者と使用する言語は多様となり、子どもと使用する言語は漢語を中心としていることが分かった。子どもに対する漢民族学校選択や周りの社会環境の変化を含め、次世代の民族言語を習得できる場所が減少している。第二に、教育方法について、朝鮮族集住地域で生活する対象者の場合は「生まれ育った朝鮮族文化環境による自然習得」が多いのに対して、漢民族との混住地域で生活する次世代の場合は「親が言語で伝達する」や「親が現場で教える」のように、意識的に教えるケースが多く見られる。家庭内での朝鮮族の親による言語教育について、特に異民族家庭の場合、親の伝承に対する意識が非常に重要であると言える。また、居住地域を問わず、家族とのコミュニケーションが朝鮮語の習得で非常に重要な役割を立っていることが分かった。さらに、家庭外教育において、社会教育施設の活用や週末学校の事例から、朝鮮族の親、家族また朝鮮族コミュニティは子どもに朝鮮語を抑圧的に教えるのではなく、自ら朝鮮語の重要性を理解し、興味をもって自主的に学ぶきっかけ作りと協力が必要である。それについては、朝鮮族自身の言語伝承意識や朝鮮族コミュ172
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