4.次世代への言語教育4.1 家庭内における言語教育る。そのことは移動先の人々にも影響を及ぼしている。近年、移動先での朝鮮族文化の「趣味教室」という独自の場所は、民族楽器や舞踊などを趣味とする朝鮮族の人々を引き寄せ、朝鮮族文化を再生産する役割を果たしている。インタビュー対象では、朝鮮族伝統楽器の伽耶琴(カヤッコとも呼ぶ)教室に通っているMや、北京朝鮮族舞踊教室に通っているKとNがいた。このように、漢民族社会に生きているにもかかわらず、今までお互いに面識のなかった朝鮮族同士が朝鮮族自らのコミュニティに参加することによって、新たな朝鮮族の人的ネットワークを創出し、そこで出会った朝鮮族は朝鮮族としての自覚を共有し合うと同時に、民族文化に関する知見を深め、民族文化伝承に取り組むようになっている。移住生活において、朝鮮族の親はどのような教育戦略を考えているのかについて、本節では、北京在住の朝鮮族の次世代への言語教育を「家庭内における言語教育」と「朝鮮族週末学校の役割」という二つの視点から考察していく。これまでの歴史の中で異民族間の通婚には抵抗があったが、現在は既成事実として定着している。たとえ異民族との通婚に対して強い抵抗のあった朝鮮族の中でも、漢民族または他の民族出身の配偶者をもつ者が増えている(張 2010)。今回のインタビューでは、異民族家庭の言語教育への考え方について、吉のように配偶者が漢民族の女性の場合、普段は仕事があり、子どもの日常的な世話と教育をほとんど妻に任せているため、子どもの言語教育について考える余裕がないと回答した。そして、少数民族の中にも漢民族の文化は浸透しつつある中で、梅は「漢民族社会に生きるためには、漢語ができないといけません。今の教育競争も激しいので、朝鮮語は少しで十分だと思います。」と述べている。しかし、世代間の格差を感じ、積極的に言語教育に取り組んでいるケースもある。インタビューでは、英は「子ども時代では、周りはほぼ朝鮮族で、民族文化の雰囲気を強く感じているから、家族がわざわざ教える必要がありませんでした。朝鮮語とか、礼儀作法とか、風俗習慣なども家族の行動を見て自然に身につきました。でも、現在では、周りに漢民族が多いから、もし私が教えないと、息子は「自分が朝鮮族であること」を意識できません」と回答した。家庭内で子どもに民族言語を学ばせるために、蘭は「朝鮮語の教科書を買って自分で教える」や「家で子どもに絵本を読んであげる」のような工夫以外に、「朝鮮族は礼儀作法を非常に重視しているから、子ども時代では、家族がとても厳しかったです。現在私は自分の娘に対しても、いつも朝鮮語で朝鮮族の食事マナーや言葉遣いを強調し伝えている」と答えた。また、普段の家庭生活で朝鮮族の食文化を継続し、年中行事になると子どもに民族衣装を着させ、祖父母にお祝いの言葉を言わせることなどがあるという。これらの回答から、朝鮮族の家庭内での民族文化を教育する環境創りが見られる。さらに、国内の家族とのつながりや韓国にいる朝鮮族家族を通じて朝鮮語を子どもに教える場合も多く見られる。まず、現在、仕事で多忙な朝鮮族の親たちにとって、子どもに直接的な民族170
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