早稲田教育評論 第37号第1号
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3.2 学校における言語環境(1)対象者の学校選択からみる言語環境(2)子どもの学校選択からみる言語環境3.3 社会環境(1)社会環境の変容168本節では、言語教育において欠かせない要素である学校選択について検討する。表1のように、調査対象者17名のうち15名は高校まで朝鮮族学校に通っていた。そのうち、朝鮮族の村出身の対象者10名は全員が朝鮮族学校を選択していた。インタビュー調査では、朝鮮族学校を選択した理由について、「朝鮮族が朝鮮族学校に通うのは昔からの伝統だから、朝鮮族学校に通わせるのは当たり前のことだ」(梅のインタビュー記録より)という保護者の強い意図による事例のほか、「家の近くに朝鮮族学校があったから通うことになった」(蘭のインタビュー記録より)という回答もあった。また、学校空間での教授言語と日常会話に関しては、朝鮮族学校の場合、学校での日常会話から教師の教授言語まで朝鮮語中心という単一の言語使用状況であり、第二言語としての漢語も朝鮮語で教えている。一方、都市部出身の調査対象者7名のうち、高校まで漢民族学校に通っていたのは2名である。当時、朝鮮族が漢民族学校に通うケースにはどのような理由があるかに関して、漢民族学校経験者である金と賢に聞いたところ、金は「父と母が将来中国社会に生きるため、漢語ができないといけないと考えたからです」、賢は「都市では、ほぼ漢民族学校で、朝鮮族学校が少ないから」と答えた。当時、すべて漢語を使用する漢民族学校に通っていたため、二つのケースとも子ども時代の家庭で使用する主な言語は漢語であった。このように、中国においては、朝鮮族が漢民族と混住している都市部と、朝鮮族が集住している農村部の環境による学校環境に差異が見られる。その点は家庭内使用言語にも影響を及ぼしていることがうかがえる。まず、大多数の調査対象者が朝鮮族学校に通っていた一方で、北京で生まれ育った彼らの子どもは全員が漢民族学校に通っているという回答だった。その理由について、「昔の朝鮮族の村には朝鮮族学校が多いから、民族学校に通うのが簡単です。子どもは自分の民族学校に通わせたいのですが、そもそも北京には朝鮮族学校がないです」(海のインタビュー記録より)と答えており、深刻な状況があることがわかった。その他、玉は息子の小学校1年の時に地元の朝鮮族学校に通っていたが、翌年から北京に戻って漢民族学校に通わせている。息子を漢民族学校に転校させた理由について、「朝鮮族学校と比べて、漢民族学校の質が良くて、教師たちの教え方がより上手です」という高品質の教育への追求が見られる。以上より、学校選択については対象者自身と異なり、朝鮮族学校のない北京市では彼らの子ども全員が漢民族学校に通わざるをえない状況があることが分かった。漢民族学校においては、学校空間での教授言語と日常会話は完全に漢語で行われており、学校での民族的イベントもないため、学校で朝鮮語を習得することはより難しくなっていることが推測できる。まず、家庭外での使用言語について、朝鮮族は1990年まで非常に安定した閉鎖的な集団として

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