早稲田教育評論 第37号第1号
173/228

(2) 配偶者との使用言語(3)子どもとの使用言語まず、配偶者選択について、朝鮮族の親は、自分の子どもが朝鮮族を結婚相手として選ぶことを望んでいる。特に民族意識が強い家庭では、朝鮮族同士での結婚がより強く要求される。しかし、時代の変化につれ、大都市へ移住した朝鮮族が多くなったことで、仕事環境や日常生活環境の変化により、朝鮮族同士での結婚へのこだわりは徐々に弱くなっている。調査対象者の祖父母や父母世代が朝鮮族と結婚しているのと異なり、対象者17名のうち、8名だけが配偶者も朝鮮族である。40代と50代に比べて、30代の場合、漢民族配偶者の比率が高くなっている。次に、夫婦間の使用言語について、漢語のみが8名、朝鮮語のみが5名と朝鮮語・漢語の二言語併用が4名だった。この点について対象者は、「私たち夫婦とも朝鮮族なので、普段も朝鮮語を使っています。」(明のインタビュー記録より)という朝鮮語中心のケースもあり、「夫も朝鮮族なので、会話はほとんど朝鮮語ですが、子どもは漢民族学校に通っているから、たまに朝鮮語と漢語を混ぜて使います」(春のインタビュー記録より)という二言語併用のケースもある。その他、「夫は漢民族なので、朝鮮語が一切分からないです」(妍のインタビュー記録より)という漢語中心のケースもある。以上より、朝鮮族同士の夫婦間では主に朝鮮語、異民族同士の夫婦間で完全に漢語が用いられていることが分かった。夫婦間での家庭内使用言語は、上の世代との使用言語より多様であることが分かった。まず、子どもの民族について、調査対象者の年齢層や配偶者の民族を問わず、対象者17名の子どもはすべて朝鮮族として育てられている。この点に対象者に語ってもらうと、夫婦ともに朝鮮族である玉は「朝鮮族は優秀な民族だと思っています。マイノリティだからこそ、代々に伝えるべきだと考えています」、夫が漢民族である海は「自民族にプライドをもっているので、自分の子どもにも継承してほしいと思っています」と答えた。こうして、たとえ配偶者が異なる民族である場合でも、次世代に対しての朝鮮族アイデンティティへの強い伝承意識をもっていることが見られる。次に、子どもとの使用言語について、漢語のみが4名、漢語・朝鮮語の二言語併用が7名である。表2のように、主に漢語と答えたのは11名である。さらに、インタビューによると、対象者の漢民族配偶者9名のうち、特に配偶者が女性の場合について、吉は「妻は漢民族で、二人では漢語だけ使っています。娘も漢民族学校に通っているので、家では漢語しか使いません。私の仕事も忙しくて、娘の世話と教育はいつも妻に任せています。家で朝鮮語や民族のことを教えたいですが、なかなか時間が取れません」と残念そうに語った。以上より、対象者の祖父母・父母世代に比べて、対象者と子どもとの間で使用する言語が多様であることと、漢語がより中心になっていることが分かった。他方、配偶者の民族属性と夫婦間の教育役割分業は、子どもとの使用言語にも影響を及ぼしていることが読み取れる。167

元のページ  ../index.html#173

このブックを見る