2.調査概要 3.世代間からみる文化変容 3.1 家庭内使用言語164移動した朝鮮族の次世代への教育戦略に関する研究では、主に海外へ移動した朝鮮族の研究が多く、その中でも在日朝鮮族への考察が多い。まず、権・宮島ら(2006)は在日朝鮮族の実態を把握した。ここでは、在日朝鮮族の親世代が子世代に対して、「多文化・多言語教育」、「朝鮮族としての教育」、「中国人としての教育」、「日本人と同じ教育」、「国際教育」、「エリート教育」など多様な未来像を描いていることが分かった。次に、金(2014)は在日朝鮮族の教育戦略を、家庭内使用言語と学校選択の二つの側面から考察した。ここでは、在日朝鮮族次世代の教育環境と、そこで直面している問題として、朝鮮語と民族文化を継承させることの困難さとモノリンガル化の傾向が見られる。以上の研究は、在日朝鮮族の理想とする教育、家庭内言語教育や多様な学校選択など、海外へ移動した朝鮮族の次世代への教育戦略を把握するのに重要である。しかしその一方、中国国内へ移動した朝鮮族の次世代への教育戦略に関する研究はあまり充実していない。したがって本研究は、中国国内へ移動した朝鮮族に焦点を当て、北京在住朝鮮族の教育戦略を言語教育の面から検討し、その現状と問題点を踏まえた上で、家庭面に限らず、家庭以外の面についても考察する。本調査は、調査対象者に自分の移動生活を振り返ってもらう回顧型のインタビューによって行う。事前に大まかな質問事項を決めておき、調査対象者に「親から受けた教育」、「移動先での生活状況」、「次世代に対する教育」について話してもらうという形をとり、話の流れに沿いながら柔軟に質問をするという半構造化インタビューを実施した。調査対象者には、調査の目的や結果の公表の仕方を事前に説明し、ICレコーダーで録音することについても許可を得た上で、インタビュー調査を実施した。また調査対象者の人物名は仮名で表記する。次に、調査対象者の基本データである。本調査の対象は、中国改革開放以降、北京へ移動し、現在も北京に定住している17名の朝鮮族である。調査対象者の年齢は30−50代である。本調査の17名の一覧は、表1「調査対象者情報のプロフィール」のとおりである。年齢は30代が6名、40代が6名、50代が5名である。性別は女性が13名、男性が4名である。朝鮮族の国際間及び地域間の移動が急激に増加する中で、民族の文化環境は変化し、朝鮮族自身の民族文化への認識や価値観も移動先に応じて影響を受ける。本節では、世代間における文化変容を「家庭」、「学校」及び「社会」に分けて、次世代への言語教育について検討する。ここでは、調査対象者の家庭内で使用する言語を、祖父母との間で使用する言語、保護者との間で使用する言語、配偶者との間、子どもとの間で使用する言語の4種類に分け、その特徴を整理し、世代間の差異を明らかにする。表2は対象者が家庭内において家族と使用する言語をまとめたもので、表3は対象者の配偶者や子どもの属性と家庭内使用言語を個人レベルで示したものである。
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