早稲田教育評論 第37号第1号
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1−2.附属・系属高校に関する先行研究と分析の枠組みことが読み取れる。他方で、学習に関するネガティブな印象もぬぐえない。附属・系属校の生徒は大学への進学が保障されていることから受験への意識が低く、高校入学後の学習についてはおざなりになる傾向にあるという認識が持たれている場合が多い。言うまでもなく、附属・系属校と一般的な高校との最大の差異の1つは、内部推薦入試による内部進学制度が整備されている点である。大学入試というライフイベントを経ることなく、選抜性の高い系列大学4、いわゆる銘柄大学へ進学できることが高校入学時に確実な場合、その生徒たちはどのような高校生活を送るのだろうか。附属・系属校の生徒は、実際に課外活動に積極的に取り組み、学習には消極的なのだろうか。本稿は、附属・系属校生の学習および課外活動に焦点を当て、大学入試に縛られない彼/彼女らがどのような放課後を過ごしているかを明らかにすることで附属校の実態について実証的な分析を試みる。高大接続改革が示された中央教育審議会の答申(2014)5以降、先行き不透明な「大学入試」に対してある種の安心感を求める受験生や家族の間で、内部進学が可能な大学附属・系属校の人気が高まっている6。進学保障は教育を享受する側にとって大きな魅力であると同時に、大学側にとっても早期から優秀な学生を確保できる点、さらに入学生の質を担保することが叶う点で附属・系属校の設置は有用である。土田(2008)は「(従来の)指定校推薦の枠を提供するよりも(高校を)系列化することで、当該高等学校の教育に全面的にコミットし、安定的に優秀な学生を大学に引き入れようということになる」7とそのメリットを語っている。実際のところ、私立大学附属・系属高校からの入試選抜を経ない大学入学、いわゆる「内部進学制度」を利用する大学進学ルートは、日本以外では例を見ない独特の高大接続の形態である8。しかしながら、日本に存在する附属・系属高校の数を正確にとらえた体系的な統計はなく、同時に附属・系属校における課外活動に関する研究論文も管見の限り見当たらない9。その一方で、受験生およびその保護者に向けた教育雑誌では附属・系属校が積極的に特集されている。大学附属の高校入試に関するガイドブック10でリストアップされている首都圏の私立大学附属高校は73校あり、その数は系属校を中心に近年増加の傾向にある11とされている。翻って附属校・系属校での教育カリキュラムは、中央教育審議会による「高大接続答申」12内で提唱されている「学力の3要素」(主体性・多様性・協働性/思考力・判断力・表現力/知識・技能)とも親和性が高い。大塚(2020)は「高次の『知識・技能』があればこそ、次なる 『主体的学び』に結び付く課題が浮き彫りにされ、より高次の『思考・判断・表現等』の認知活動を通して、さらに高次の『知識・技能』へと結晶化されていく」13と述べており、3要素の連環が肝要であると唱えている。須賀中(2008)は、大学の最先端の研究成果を附属・系属校の高校教育段階で享受できることは「学びへのモチベーションアップ」14につながると指摘している。この背景には、暗記による評価を中心とした従来の入試選抜とそれに対応する知識注入型の高校教育への反省と、創造性に代表されるこれからの社会を生きるうえで必要な能力の涵養を重視する文部科学省および大学のアドミッション・ポリシーの変容がうかがえる(中村 2012)15。そしてこのような評価軸の転換に伴い、座学による従来の学びだけでなく高校時代の留学やスポー142

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