早稲田教育評論 第37号第1号
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注1 本稿では、高校生の大学や大学院への進学意識について検討したが、中学生を対象として、大学や大学院への進学意識に着目した調査・分析も行われている。例えば、舞田(2018)は、TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)2015から、日本の中学2年生の大学院進学希望率が3%であること、付 記しかし、大学院への進学を希望する生徒は、グループでの活動を忌避しているだけではないことも示された。特に博士課程への進学を希望する生徒は、グループで行われることも多いと思われるボランティア活動に積極的に参加している様子が伺えた。大学院への進学希望者は、集団での行動を一様に避けているわけではなく、自ら選択することができる自分の興味の対象と重なる活動であれば、積極的に参加をするとも考えられる。大学院への進学を希望する生徒は、他者からの指示よりも、自分の「興味があることに意欲的」であり、それが学習行動や学習に関わる意欲・態度に影響を与えているとも考えられる。本稿は、高校生の大学や大学院への進学希望に着目し、選抜性の高い私立大学附属・系属高校の生徒を対象とした調査データから、高校生が希望する大学の教育段階(大学学部、修士課程、博士課程)によって、生徒の学習行動や学習に関する意欲・態度が異なることを示してきた。大学生が大学院に進学するか否かは、高校時代にすでにある程度決定されており、生徒の大学学部や大学院への進学希望は、彼ら/彼女らの学習行動や学習に関わる意欲・態度としても表出されている。溝上(2018)は、大学での資質・能力は、高校時代の資質や能力に影響されることを示したが、本研究は、大学から大学院への進学希望は、高校時代にある程度決定されていて、それは高校生の曖昧な夢の一つではなく、彼ら/彼女らの学習行動や学習に関する意欲・態度とも結びついていることを明らかにした。大学院(修士課程、博士課程)への進学が、すでに高校時代からある程度決定されているのであれば、大学院研究において、大学院生や大学院修了者を対象とするだけでなく、大学入学前の高校生にも着目することで、大学院への進学に影響を与える要因について、検討できるものと考える。このような大学院への進学に影響を与える多様な要因の検討は、本研究が残した課題の一つである。また、本稿では、文系、理系を分けずに分析したが、さらに対象者を増やして、文系と理系の違いについても検討する必要があると考える。本研究では、選抜性の高い私立大学附属・系属高校の生徒を対象とした。選抜性の高い私立高校や、進学校といわれる高校の生徒においても同様に、生徒が希望する大学の教育段階(大学学部、修士課程、博士課程)によって、学習行動や学習に関わる意欲・態度に異なる傾向がみられるのか、さらなる調査・研究が必要だと考えている。これらを今後の研究の課題としたい。本論文は、早稲田大学教育総合研究所研究部会「グローバル時代における高大接続に関する研究:大学附属校・系属校を対象として(代表:吉田文)」(2019年度:B-11、2020年度:B-3)の研究成果の一部である。137

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