早稲田教育評論 第37号第1号
132/228

2.先行研究と分析の枠組みると、学部生のうち11.8%が修士課程等に進学をしており、修士課程から博士課程への進学率は10.1%である。大学生の約1割が修士課程に進学し、うち約1割が博士課程に進学していることから、大学院への進学者はそれほど少数派ではないといえよう。一方、諸外国と比較すると、日本の大学院進学率は低く、いかに優秀な学生を大学院に引き付けるかが課題になって久しい(中央教育審議会大学分科会 2019)。しかしながら、そもそも現状において、どのような特性を持つ者が大学院へ進学しようとしているのだろうか。本稿は、大学や大学院進学を希望する高校生を対象として、それを検討することを試みる。次項では、高校生の大学や大学院への進学希望に関する調査を確認するとともに、高校生の進学希望や学習行動などに関わる先行研究について検討する。まず、高校生を対象として、大学や大学院への進学希望を問うた調査をみてみよう1。高校生を対象とした学習に関する調査(学研教育総合研究所 20182)では、四年制大学以上の進学を希望する高校生は59.8%、うち大学院を希望する生徒は9.5%(修士課程まで6.5%、博士課程まで3.0%)であった。また高校生を対象とした他の調査(ベネッセ 20153)でも、高校生の大学学部、また大学院進学までの希望が問われており、高校生は、高校在学中から、大学学部までの進学を希望するのか、大学院進学までを希望するのか、ある程度意識的であることがみてとれる。しかし、このような大学院への進学希望は、高校生の曖昧な夢の一つであるのか、当該生徒の学習行動とも関連するものであるのかは不明である。高校生の進学と学習に関わる先行研究をみると、溝上(2018)は、高校時の資質や能力が、大学での資質や能力に影響を与えていることを明らかにした4。また、山村(2019)は、進路について具体的イメージを持っているほど、つまり高校時に進学したい分野や大学が明確になっているほど、学習時間が増えることを示した。これらの先行研究から、高校時の資質・能力は、大学での資質・能力に影響を与えるとともに、高校時代に将来ビジョンを持つことは、高校時代の学習行動にも影響を与えると考えられる。次に大学院進学に関する研究をみると、濱中(2016)は、私立進学校の卒業生を対象とした調査から、高校での成績優秀層が大学院に進学する傾向が強いことを示した5。この研究は、高校時の学力が大学院進学と関連することを示したものであり、溝上(2018)を参照すると、高校時の成績の良さが、大学での成績の良さにつながり、それが大学院への進学を推進するものとみることができる。前述したように、高校生は、高校在学中から、大学学部までの進学を希望するのか、大学院進学までを希望するのか、意識的だと思われるが、大学学部までを希望する生徒と、大学院への進学を希望する生徒では、高校での学習行動や学習に関わる態度が異なるのかまでは明らかにされていない。また濱中は、大学院生の学習に関わる態度について、若い世代の修士課程修了者の「課題達成力」や「素直さ」が有意に低くなってきていることを示した(濱中 2016)。濱中は、この結果から、修士課程に進んだ者は「出された指示を素直に受け止めない」傾向があるとし、このよう126

元のページ  ../index.html#132

このブックを見る