1.問題の設定キーワード:大学院、学習時間、学習意欲、課外活動、探求学習、附属・系属高校【要 旨】本稿は、これまでの高等教育研究、また大学院研究において、ほとんど顧みてこられなかった高校生の大学や大学院への進学意識に着目し、高校時代から大学院進学を視野に入れている生徒はどのような生徒なのか、その学習行動や学習に関わる意欲・態度について検討するものである。また、これにより、大学院研究において、高校生の大学院への進学意識に着目することの意義を問うものである。生徒のほとんどが大学に進学する選抜性の高い私立大学附属・系属高校の生徒を対象として、生徒が希望する大学の教育段階(大学学部、修士課程、博士課程)別に分析したところ、次のことが明らかになった。(1)大学院への進学を希望する生徒は、大学学部までの進学を希望する生徒より、授業外の学習時間が長い。特に博士課程への進学を希望する生徒は、高校1年から3年のどの学年においても、大学学部までを希望する生徒よりも、有意に長い時間学習をしていた。(2)大学院への進学を希望する生徒は、「教科内容は面白い」と考え、「興味があることに意欲的」な傾向がある一方、「学校行事」への参加については消極的な傾向があった。また、「探求学習への意欲」について、探求的な学習に関する発表会を経験した生徒群においては、大学学部までを希望する生徒よりも、大学院、特に博士課程への進学を希望する生徒のほうが、「探求学習への意欲」が下がる可能性が示唆された。(3)大学院への進学を希望する生徒は、図書館利用、学外ボランティア、ミュージアム訪問などの学校外の活動にも積極的であることが示された。本研究によって、大学、また大学院への進学希望という将来展望の違いによって、生徒の学習行動や学習に関する意欲・態度が異なることが示唆された。最後に、大学院研究において、大学院生や大学院修了者を対象とするだけでなく、大学入学前の高校生の進学意識に着目することの意義について述べた。本稿の目的は、高校生の大学や大学院への進学意識に着目し、高校時代から大学院進学を視野に入れている生徒はどのような生徒なのか、その学習行動や学習に関わる意欲・態度について検討することである。近年、大学進学率は伸長しており、2021年度の大学進学率は58.9%で過去最高となっている(文部科学省 2021)。このように6割近くの高校生が大学に進学する中、大学院への進学者も増加しているのだろうか。大学院在籍者数の推移をみると、1991年の98,650人から2018年には254,037人と、約2.6倍に増えており、2006年頃以降は多少の増減がありながらも横ばい状態が続いている(中央教育審議会大学分科会 2018)。また、大学(学部)から大学院等への進学率は、2017年以降、2021年まで、11%台が続いており、大学院進学は、ここ数年ある程度安定的な状態に留まっている(文部科学省 2021)。2021年の大学院修士課程、博士課程への進学状況をみ125大学院進学を希望するのはどのような生徒か?─私立大学附属・系属校の高校生を対象とした分析─武藤 浩子
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