早稲田教育評論 第37号第1号
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注1 学校教育法施行規則第六十五条の三。なお同項は小学校について規定しているが、中学校・高等8.本研究の限界と今後の課題学校・特別支援学校にも準用される。2 実際は、SSWrと名乗らないまでもSSWrのような動きをした者は全国各地に存在した。例として、倉石(2015)参照。但し、こうした取り組みは一部の自治体にとどまる。3 ソーシャルワーカーの倫理綱領は、社会福祉専門職団体協議会代表者会議によって2005年に制定され、日本ソーシャルワーカー連盟代表者会議によって2020年に改定されている。この倫理綱領は社会福祉士・精神保健福祉士いずれの養成課程においても取り扱われ、ソーシャルワーカーが拠って立つ基盤となる原理や倫理基準を示している。4 ソーシャルワークが発展したアメリカでは、かつて個別的な援助技術を指す「ケースワーク」、集団を対象とした援助技術を指す「グループワーク」、地域を対象とした援助技術を指す「コミュは学校内においても必要とされている。本論文の結果は、学校内において指導とソーシャルワークをどのように折り合わせていけばよいのかという、多職種連携による児童生徒支援の方法論的課題を提起したといえる。最後に、本研究の限界と今後の課題を述べる。まず、自治体X・Yや4名の管理職、3名のSSWrが、日本全体を代表する事例というわけではないという限界である。したがって自治体X・Yを対象に得られた知見がすべからく他の自治体にも当てはまるわけではない。しかし、もとより質的研究は客観的な一般化を志向するものではなく、典型性や豊かで分厚い記述、多様な語りを総合した記述によって読み手それぞれが自身のケースに適用できるかを探る余地を託す「読者の側の一般化可能性」(Merriam=2004:302-10)を狙うものである。2.で述べたように、学校におけるソーシャルワークと指導との関係は先行研究では十分に描かれていないほか、今後SSWrの配置が拡充され読み手となる教員やSSWrが増えていくことをふまえれば、本論文は一定の学術的・実践的意義を有するようになると考えられる。また、一般教員や養護教諭のインタビューを行うことができずに分析に組み入れられなかったことも、本論文の知見を構築するうえでの限界である。例えば、管理職は一般教員の代わりにSSWrが話を聴くことで助けになると考えている(4.)のに対し、一般教員はSSWrから情報共有の時間を設けてもらうよりは、自分で児童生徒の話を聴いた方が早いと考える可能性もある。こうした管理職教員と一般教員との間に生じると考えられる認識の差異の解明は、今後の課題として残されている。加えて、小学校と中学校の違いへの言及も部分的になったことも限界の一つである。小学校よりも中学校の方が、高年齢の子どもを対象としていること、また義務教育の終わりでもあることから「指導」は強く働くと考えられる。しかし本論文に用いたインタビューからは、中学校よりも小学校において協働がうまくいかないという言及(6−2.)以外は、学校段階の違いは得られなかった。学校段階によって学校や教員の特徴も変わると考えられるため、今後それらを踏まえた関係性の違いを解明することが課題として残されている。121

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