早稲田教育評論 第37号第1号
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図2 学校におけるソーシャルワークと指導の関係の全体像が指導とは異なる関係性を求めているということもあり、並立が可能であった。しかし学校内で指導が必要な場面を児童生徒の発信と捉える眼差しの多重化は、教員の指導とは異なる眼差しを持ち込むことになるため、不整合を生じさせていた。次にソーシャルワークの方法である。学校外で行われる家庭訪問や十分な時間的余裕をもった個別対応は、指導の範囲を超えているため歓迎されていたが、学校内で担任の指導と役割分担を図るときには、指導の範囲と重なるために不整合が生じた。最後にソーシャルワークの価値である。無条件的な家庭での関わりも、児童生徒からの発信を尊重する関わりも、いずれもクライエント(被支援者)・ファーストに基づく関わり11という点では変わりない。しかし、前者が学校外の家庭で行われれば、指導の範囲には入らないためそのまま実行できるのに対し、後者が学校内で行われれば、指導との範囲と重なるために不整合が生じていた。以上の学校内外で異なるソーシャルワークの整合・不整合関係は、学校外で展開される支援をも視野に入れることで初めて明らかにしえたものであり、教員や学校内の秩序について説明してきた既存の教育学・教育社会学研究の関心を引き延ばす学術的な意味を有する。またソーシャルワークが学校の内と外で展開されるかで指導との関係性が変わるという説明は、よりよい協働を進めるといった“実践志向性”を帯びる社会福祉学研究の問題理解の基盤となり、制度レベルの知見の応用では見えてこないきめ細やかな知見を提供しえたといえる。そして本論文から得られた結果は、「SSWrが自由に動けるのは学校外である」という、いわばSSWrに対する自己矛盾的な制約を意味している。学校内における指導関係が成立しなくなった場合に限り、SSWrのソーシャルワークは「第三者」として十分に展開することができる。逆に指導関係が成立している間に関わる場合には、「新しい視野」をもたらすものとして、指導との不整合を乗り越える必要が生じる。乗り越えられない限り、SSWrは、学校の手が届かない学校外の支援を中心的に担うにとどまってしまうことが示唆される。福祉的な支援の必要性は、学校外だけにあるわけではない。確かに、子どもが育つ家庭で生じる貧困や虐待といった問題に、学校外に支援を伸ばすSSWrの働き掛けは有用とされている。現に、そうした社会問題への対応策としてSSWrの予算は拡充されている(藤本 2022)。しかし一方で、合理的配慮の提供や多様な価値観を包含するチームでの児童生徒支援など、福祉的な支援120(筆者作成。)

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