早稲田教育評論 第37号第1号
118/228

3.研究目的・調査の概要公的扶助)やアクティベーション(就労促進)といった〈教育〉の論理が存在するといった整理を行っている。そして仁平はとりわけ〈無為〉の論理が、教育の論理に比べて脆弱であるがゆえに、その制度的余地を作り出す必要性を論じている。こうした教育と社会保障についての議論を応用すれば、主に〈教育〉の論理を担うのが学校であり、その中でSSWrが〈無為〉の論理を担うと整理がつきそうに思える。しかし先述の通り、日本の学校の指導はケア的な側面も有してきたため、このように整然と分けられるのかどうかは疑わしい。また社会保障とSSWrが行うソーシャルワークは同義ではなく5、ソーシャルワークの全てを〈無為〉の論理と置き換えることができるわけではない6。つまり、学校とソーシャルワークの何が整合し、何が不整合となるのかは、ソーシャルワークとは別次元の社会保障を対象とした既存の先行研究を応用するには限界があるといえる。以上の先行研究の検討からは、学校におけるソーシャルワークと指導との関係を明らかにするうえでは、教員のみならずSSWrの実践に着目した上で(2−1.)、制度レベルでは説明しきれない、現場における“結果”としての整合と不整合の両方に焦点を当てる必要性(2−2.)が喚起されているといえる。そこで本論文では、学校におけるソーシャルワークと指導の関係について明らかにするために、SSWrならびにSSWrと協働する管理職教員のインタビュー調査の結果を用いる。学校におけるソーシャルワークと指導の関係は未だ研究が十分ではなく、事例から仮説を立ち上げる段階にある。したがって本論文では、質問紙調査に基づく量的分析の前に、インタビュー調査に基づく質的分析を行っている。筆者は早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」の承認(2017-032)を受けたうえで、2017年6月から2018年4月にかけて、首都圏内の社会経済的状況が類似している7自治体・XとY(表1参照)の小・中学校の管理職教員・管理職経験者4名ならびにSSWr3名、計7名に、一人あたり30分〜1時間程度のインタビュー調査を行った。インタビューは、SSWrが教員と良好な関係を築けている学校や事例について、あるいは逆に関係性に課題が残されている学校や事例について、そこに至る上での工夫や課題を半構造化インタビューで訊ねたものである。なお個人及び自治体の特定を避けるため、調査に協力いただいたそれぞれのSSWrの性別や年齢、所属自治体は省略している。112表1 自治体X・YにおけるSSWr活用事業の概要(調査当時、筆者作成。)導入年度所属形態学校数2007年教育センター派遣型小学校約40校中学校約20校2008年教育センター派遣型小学校約20校中学校約10校XY

元のページ  ../index.html#118

このブックを見る