早稲田教育評論 第37号第1号
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1.問題設定1-1.学校に導入されるソーシャルワークキーワード: スクールソーシャルワーカー、ソーシャルワーク、指導、管理職教員、第三者、家庭への支援拡大、眼差しの多重化、不整合【要 旨】本論文は、学校においてスクールソーシャルワーカー(SSWr)が展開するソーシャルワークと、教員の指導との間には、どのような関係が生じているのかを明らかにすることを目的とする。独自の対象・方法・価値を有し、個別的な支援を展開するソーシャルワークは、集団性を基盤に児童生徒と全人的な指導関係を築く教員による指導と整合的な関係を取り結べるとは限らない。むしろ、指向性を異にする両者の間で、何らかの不整合が発生することが考えられる。こうした学校におけるソーシャルワークと指導との関係は、教員の役割や学校内の秩序に着目する教育学・教育社会学研究の関心からは外れ、実践志向性を有する社会福祉学研究においても十分に焦点化されてこなかった。そこで本論文では、SSWr3名ならびにSSWrと協働する管理職教員・管理職経験者4名のインタビュー調査の結果に対して定性的コーディングを行った。定性的コーディングによって脱文脈化されたデータを、上述の研究目的のもとに漸次構造化させながら概念を生成し、再文脈化を行った。結果、ソーシャルワークとして行われている支援は、第三者性による家庭への支援拡大(4.)及び眼差しの多重化(5.)として概念化された。そして、前者は指導と並立する整合的な関係にあった(6−1.)のに対し、後者では不整合が生じている(6−2.)ことが明らかにされた。そしてソーシャルワークのうち、学校における指導と整合する支援は学校外で行われるものであり、不整合を生じさせる支援は学校内で行われる支援であることが考察され、「SSWrが自由に動けるのは学校外である」という自己矛盾的な制約が存在していることを指摘した。図1に示すように、社会福祉政策は独自の施策・制度として存在している一方で、保健医療や所得保障といった他の政策においても代替・補充機能を担うことによって発展してきた(古川 1998)。L字型構造として整理されるこうした社会福祉の位置づけは、近年の教育政策においても同様である。その教育政策とは、2008年度より全国で始まったスクールソーシャルワーカー(以下、SSWrと略記)活用事業である。SSWrとは、「学校において福祉的な支援に従事する1」専門職である。事業開始以降、SSWrの人数は増加の一途にあり、全国の学校でSSWrとの協働が進展しつつある。こうしたSSWrとの協働の進展は、これまで日本の学校では明示的には存在してこなかった福祉的な支援2である「ソーシャルワーク」が、教育機関である学校に導入されていることを意味する。107─管理職教員と派遣型スクールソーシャルワーカーの語りに着目して─学校におけるソーシャルワークと指導の関係藤本 啓寛

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