注(1)ここでいう大学進学ルートとは,校内選抜や大学入試選抜などの大学進学方法やそれに向かう「正の緊張感」を持ち、学習への意欲も高く、学習時間も長い、推薦(選抜)ルートの生徒が「のぞましい」高校生の姿かもしれない。しかし、選抜(全入)ルートの生徒が、「選抜」がないにも関わらず、学習意欲を持ち勉学に励んでいる様子を示せたのは本研究の大きな成果だと考える。このように本研究では私立大学の附属・系属高校の大学進学ルート別に生徒の学習意識や学習行動を検討した。これまでの高大接続研究では、高校ランクや、社会階層、個人の成績など、言い換えれば、何らか階層の差異に着目し、生徒の学習行動との関係を検討してきたと考えられる。しかし、選抜性の高い私立大学附属・系属高校における複数の大学進学ルートに着目することで、ほぼ同じ階層に属する生徒が通ろうとする大学入学のための選抜の差異が、生徒の学習行動に与える影響について検討することができた。これら知見は、今後の「大学全入時代」における高校生の学習意欲・学習行動を検討していく上で、示唆を与えるものであると考える。今まで顧みられていなかった私立大学附属・系属高校を対象とした研究により、「大学に進学する」ことがある程度約束されている高校生でも学習意欲や教科学習へのモチベーションが維持されているという知見は、単なる特殊事例から得られた結果に留まらず、今後の高大接続のあり方を考える上で必要かつ有用であると考える。しかしながら、本稿には残された課題も多い。本稿は、私立大学附属・系属高校の大学進学ルートに着目し、複数の附属・系属高校をまとめて検討してきたが、その学習意欲が、附属・系属高校入学時に「選抜」を経た彼(女)らにもともと備わっている素質なのか、附属・系属高校での学びによる効果なのかについて、本研究では明らかにすることができなかった。その解明には、それぞれの附属・系属高校で行われている教育にも着目し、各附属・系属高校における生徒の学習経験や、学校内外での学習活動が、各高校の生徒の学習意欲や学習行動に与える影響について検討することが不可欠であると考える。他方、系列大学の選抜性、つまり受験偏差値が高くない私立大学の附属・系属高校の場合、今回の対象であった附属・系属高校と同じような進学ルートが用意されているとしても、必ずしも同じ傾向が確認できるとは限らない。十分な内部進学の枠が確保できているにも関わらず系列大学への進学の割合が低い学校において、内部進学制度が生徒の高校生活に及ぼす影響は本論文の知見では説明されない可能性も否めない。これらを今後の研究の課題としたい。付記本論文は、早稲田大学教育総合研究所研究部会「グローバル時代における高大接続に関する研究:大学附属校・系属校を対象として(代表:吉田文)」(2019年度:B-11、2020年度:B-3)、および「私立大学附属高校が大学進学者にもたらす影響に関する研究─高大連携教育と内部進学制度に着目して─(代表:吉田文)」(2021年度:B-10)の研究成果の一部である。「道筋(ルート)」を意味するものとして使う。これは荒井(1998)を参考にした。84早稲田教育評論 第 36 巻第1号
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