早稲田教育評論 第36号第1号
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本研究は、私立大学附属・系属高校を対象として、大学進学ルートに着目し、大学進学ルートと生徒の大学進学に関する意識や、学習意欲、学習時間との関連について検討することを目的とし分析してきた。大学進学に関する意識や学習への意欲、学習時間は、大学進学ルートによって差異があること、また附属・系属校推薦か一般入試かという二元的な視点でなく、附属・系属校推薦における選抜の影響も含めて検討する必要があることを示してきた。これまでの分析結果に基づき、以下、考察を行う。まず、同じ私立大学の附属・系属高校における、附属・系属校推薦選抜の有無、また一般入試の選択が、生徒の学習への意識と学習行動に与える影響を3つの大学進学ルート別に確認してみよう。今回の分析結果からは、附属・系属校推薦選抜を経て進学しようとする生徒は、(1)努力の必要性を感じており、(2)学習への意欲が高く、(3)努力の指標としての学習時間も長いことが明らかにされた。私立大学の副学長を務めた土田(2008)は、「受験がない系列校の生徒は、ともすれば緊張感が薄くなる傾向がどうしても生じてしまう」とし、高校生が持つ緊張感を、「受験ストレスのような「負の緊張感」」と「自分の知力や感性を磨く「正の緊張感」」に区分し、附属・系属校生徒の「正の緊張感」の必要性を述べていた。その定義をかりて考えると、校内における競争と選抜を意識化している推薦(選抜)ルートの生徒は「正の緊張感」持っていると解釈することができるだろう。他方、大学入学者選抜を経る一般入試ルートを選ぶ生徒の場合は、学習時間は長いものの、その学習時間が、大学入試間際の追い込みと、塾に行くことで規定されていた。私立X大学の附属・系属校卒業生の進学先を確認してみると(23)、附属・系属校に在籍しながら一般入試を目指す理由は主に積極的なものと消極的なものの2つに分類できると思われる。まず積極的な理由として、系列大学より受験偏差値の高い大学を目指す場合と系列大学にはない専門を希望している場合が挙げられる。他方、消極的な理由としては、主に内部選抜が行われる学校において、本人の普段の学業成績では内部進学が望めず、結果として一般入試を選択せざるを得ない場合である。いずれにせよ、彼(女)らの学習時間数の変化は、進学校を対象とした先行研究(濱中 2016)においても同様に見られるものであり、附属・系属高校の生徒であっても、内部における競争・選抜を経る生徒と、外部での競争選抜を経る生徒では、生徒の意識と学習行動が異なると考えられる。最後に、推薦(全入)ルートの生徒は、ほかのルートの生徒と比べ、大学進学への緊張感が薄く学習時間も短いものの、教科学習への意欲も教科内容を面白いという気持ちも持っていた。先行研究で提示された学力不問入試が高校生の学習意欲に負の影響を与えることについては、本稿が対象とした生徒には当てはまらないように思われる。これまで、附属・系属高校の生徒を対象にした研究がなされなかったため、彼(女)らは「推薦入試組」として一括りにされ、「学習意欲の低さ」や「学力不足」の脈略で語られてきた。確かに、彼(女)らの学習時間は、同じ附属・系属高校の他のグループより短いものであったが、平均して1時間を超えており、受験が迫る3年次の勉強時間を除けば、濱中(2016)が調査した進学校の勉強時間とさほど変わらない。私立大学附属・系属高校生徒の学習に関する研究 ─大学進学ルートの違いに着目して─835.考察と今後の展開

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