選抜を経る生徒の学習時間は、1年生のときから継続的に長い傾向があることが確認された。では、ここで確認された大学進学ルートによって異なる学習時間は、何に規定されているのだろうか。前節までの分析では、大学進学ルートに着目し、大学進学への意識(大学進学のための努力の必要性)、学習への意欲・面白さ、学習時間について、学年別に検討した。しかしながら、これらの要因間の関連、特に学習時間の増加にどのような要因が効果をもつのかまでは示していない。そこで本節では、私立大学附属・系属高校の生徒の学習時間が、どのような要因から影響を受けているのか、大学進学ルートに着目しながら分析を行う。そのために学習時間を従属変数として、重回帰分析を行う。本調査は、山村・濱中・立脇(2019)と同様に、学習時間については、「学習塾等での学習時間も含めた授業以外の学習時間」を聞いているため、学習塾等への通塾(20)を独立変数として投入し、基本的な変数である性別、学年も投入した。濱中(2016)は、「さぼることが絶対できない試験」が接近することでようやく学習に取り組みはじめる、と述べたが、高校生にとって「学年が上がること」は、「大学進学のための選抜が近づくこと」を意味すると解釈できよう。また、独立変数として、前節までで検討した大学進学に関する意識(大学進学のための努力の必要性、希望学部進学のための努力の必要性)、学習意欲(教科学習への意欲、教科内容は面白い)を独立変数として投入し(21)、従属変数を平日の学習時間とした重回帰分析結果を表3に示す。また、従属変数を土・日の学習時間とした結果を表4に示す通塾は学習時間に影響を与えており、これは通塾による学習時間確保によるものと考えられるが、通塾の影響は一般入試ルートでもっとも大きい。また、「教科学習への意欲」は、どの大学進学ルートにおいても学習時間を伸ばすが、推薦(全入)ルートでその影響が大きい。また、学年(=大学入学のための選抜が近づく)は、推薦(選抜)ルート、また一般入試ルートでは効果を示すことがわかる。一般入試の生徒においては、「大学受験が近いから、勉強しよう(勉強せざるを得ない)」ことにより、学習時間が増えるという傾向を見て取ることができる。大学進学ルートを個別に見てみると、推薦(全入)ルートでは、大学進学への努力の必要性や、教科学習への意欲、教科内容は面白いという、生徒の意欲や興味が学習時間を増やしているといえる。「教科内容は面白い」と考えることが、学習時間を押し上げるのは、この推薦(全入)ルートのみである。また、学年が効果を示さないことは、大学入学のための選抜を経ないことによる学習行動の特徴を端的に示していると考えられる。さらに女子ダミーが効果をもつことから、大学進学という目標が無くても女子は男子に比べて、勉強時間を確保していると考えることができよう。推薦(選抜)ルートでは、学年(=選抜が近づく)が効くとともに、教科学習への意欲が効果を示している。なお、推薦(選抜)ルートでは、平日と土・日で、通塾や、大学進学への努力の必要性が学習時間に与える効果が異なっている(22)。他方、一般入試ルートでは、学年(=選抜が近づく)が、平日でβ=.367、土・日でβ=.417と高い効果を示し、通塾も平日でβ=.325、土・日でβ=.306と高い。しかしながら、推薦(全私立大学附属・系属高校生徒の学習に関する研究 ─大学進学ルートの違いに着目して─814.4.学習時間の規定要因
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