早稲田教育評論 第36号第1号
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78推薦(全入)ルートの生徒では、大学進学について努力の必要性を感じていた生徒は1年生で36.8%と3割程度だったが、希望学部への進学に関しては56.6%の生徒が努力の必要性を感じている。しかし、学年別に見みると、2年生では6ポイント下がり50.8%、受験を目前にした3年生では42.4%と半数を下回る(14)。これを疑似パネルデータとみれば、大学入学のための選抜がない生徒は、希望学部に入るために選抜があっても、学年が上がるにつれて努力の必要性を感じなくなっているといえるだろう。一方、推薦(選抜)ルートと、一般入試ルートの生徒の希望学部進学のための努力の必要性は、3年間を通して70%前後と高く、大学入学のための努力(図1)と比べてもやや上がるにとどまっている。これらの結果から、大学進学や希望学部進学に対する生徒の努力に関する意識は、推薦入試(全入および選抜)と一般入試の差異よりも、希望大学・希望学部進学における選抜の有無の影響を受けると考えられる。言うまでもないかもしれないが、ほぼ全員が系列大学への進学を当然視されている附属・系属校の生徒は、選抜を通る必要のある進学ルートの生徒と比べ、大学進学のために努力の必要がないと考えている。努力の必要がないと考えるだけでなく、学年があがるにつれて、ある種の安心感を持つ生徒が増えるのか、努力をしようと思う生徒の割合が減る傾向が見られる。推薦(全入)ルート、推薦(選抜)ルートの生徒と、一般入試ルートの生徒では、学習意欲に差はあるのだろうか。前節でみた努力する気持ちの薄さは、学習意欲の低さに置き換えられるのだろうか。図3で示すように「教科学習への意欲」については、どの進学ルートでも、教科学習に意欲的な生徒は6割強から8割強と多く、進学ルート間で差はみられるものの、同じ進学ルート内では学年差はほとんど見られない(15)。学年集団による差異を考慮する必要はあるが、どの進学ルートにおいても、1年生が一番、教科学習に意欲的で、2年に少し意欲を下げ、3年に意欲を取り戻している様子がうかがえる。大学進学による努力の必要性を感じていないかった推薦(全入)ルートでも、約7割の生徒が教科学習に意欲的であると答えており、大学進学のための選抜がないことは、教科学習への意欲を減じるものではないと考えられる(16)。推薦(全入)ルートは、大学入試へのプレッシャー(努力の必要感)がなくても、教科学習へのモチベーションを維持していると考えられる。これは附属・系属高校入学に「選抜」を経た彼らにもともと備わっている素質なのか、附属・系属校の学びによる効果なのかは明らかではない。ここで注目したいのは、系列大学への進学を望む、推薦(選抜)ルートの生徒である。学習意欲が一番高く、平均で8割の生徒が教科学習に意欲的に取り組んでいると答えており、一般入試ルートの生徒とは約15ポイントの差がある。また、一般入試ルートの生徒は、努力の必要性を強く感じつつも、教科学習への意欲は最も低いものとなっている。附属・系属校推薦のために選抜が課される生徒の意欲が高い一方、一般入試という選抜を通らざるを得ない生徒の意欲が低いことが示されている。附属・系属校推薦で進学する生徒の学習意欲は、一般入試の生徒の学習意欲早稲田教育評論 第 36 巻第1号4.2.学習への意欲・面白さ

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