早稲田教育評論 第36号第1号
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学進学が近づく3年になると学習時間が増える傾向がみられるのだろうか。ここで私立大学附属・系属高校から系列大学(5)へのいわゆる附属・系属校推薦について確認しておく。私立大学附属・系属高校は、系列大学入学に関する選抜性で大きく2つに分類できる。まず、基本的に全員が推薦で系列大学に進むことができるいわゆる「エスカレーター式」の全入高校がある。全入の附属・系属高校では、附属・系属校推薦によって、ほぼ全員が同じ大学進学ルートを取ることになる。他方、附属・系属校推薦について校内選抜が課される高校においては、一部の生徒のみが系列大学に進み、他の生徒は一般入試や、他大学への推薦入試、AO入試などを選択することになる(6)(7)。大学進学の決定時期について考えると、系列大学に全入する附属・系属高校では、高校入学時に大学進学が決定するが、校内で附属・系属校推薦選抜が行われる高校では、附属・系属高校であっても高校3年生になりようやく推薦で系列大学に進むルートを取るのか、それ以外の大学進学ルートを取るのかが決定されることになる。このように同じ大学の附属・系属高校においても、大学進学ルートは複数あり、その大学進学ルートの影響が、生徒の学習行動の違いとして現れるのではないかと考えられる。そこで、本稿では、私立大学附属・系属高校を対象として、附属・系属高校生徒の大学進学ルートに着目し、大学進学ルートと生徒の学習行動・学習意欲との関連について検討する。なお、ここでいう附属・系属高校の大学進学ルートとは、①系列大学に全入する高校の推薦入学ルート、②校内で推薦選抜が行われる高校の推薦入学ルート、③校内で推薦選抜が行われる高校の一般入試ルートの3つのルートとする(8)(9)。本稿ではこの大学進学ルートと生徒の学習意欲、学習時間の関係に着目し、次の視点から分析を行う。1)附属・系属校生徒の大学進学に関する意識や学習意欲は、大学進学ルートによって差異があるのか?附属・系属校推薦によって進学を希望する生徒の学習意欲は、一般入試の生徒の学習意欲より低いのか?2)附属・系属校生徒の学習時間は、大学進学ルートによって差異があるのか?附属・系属校推薦によって進学を希望する生徒の学習時間は、一般入試の生徒の学習時間より短いのか?3)大学進学ルートによって、大学進学に関する意識や学習意欲が、学習時間に与える影響は異なるのか?本調査は、首都圏にある私立X大学の複数の附属・系属高校を対象として行った。系列大学の選抜性が高くない附属・系属高校の場合、附属・系属校推薦制度により系列大学に進学する者は少ないと考えられる(10)。そこで本稿では、大学附属・系属校の特徴である内部進学を積極的に利用する生徒が多い、私立大学の中でも選抜性の高い私立X大学の附属・系属高校を対象とする。さらに、私立X大学は複数の附属・系属高校を据えており、学校ごとに異なる推薦枠を設けている。同じ系列大学の附属・系属校の生徒であっても進学ルートの違いによる分化が確認でき74早稲田教育評論 第 36 巻第1号3.調査とデータ概要3.1.調査概要

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