山村・濱中・立脇(2019)は、推薦入試、AO入試などの学力不問入試の普及が、高校生の学習意欲を削ぐという認識があることを述べたが、推薦入試の中でも、私立大学の附属・系属高校の推薦による系列大学への内部進学は、生徒の学習意欲を削ぎ、学習時間を減じさせるのだろうか。高校生の学習意欲や学習時間に関して、これまで、進学多様校や偏差値に多様性のある高校群を対象として、出身階層や成績、高校ランクと学習時間との関連が明らかにされてきた(苅谷 2000、荒牧 2002)。苅谷(2000)は、学習時間を「努力の指標」と捉え、生徒の出身階層の影響が、学習時間で示される努力に影響を与えることを示した。荒牧(2002)は、学習時間を「学習意欲」と捉え直した上で、学習時間が高校偏差値や生徒の進路に関する志向に影響されることを示している。中村(2011)や西丸(2015)は、推薦入試を希望する生徒の学習時間は、一般入試を希望する生徒の学習時間より短いことを示したが、その差異は推薦入試希望者に進路多様校の生徒が多いことによる影響があることを示している。これらの研究は、多様な生徒・高校を対象とし、出身階層や高校ランク上位の生徒の学習時間は、下位の生徒の学習時間より長くなることを示してきたといえる。では、高校ランク上位の「進学校」の学習時間や意欲は、どのような要因の影響を受けるのだろうか。有海(2011)は、地方と都市部の進学校を比較し、「学習意欲」と意味づけた学習時間が、生徒の進学志向性に影響されるとした。また、首都圏の公立進学校、公立進学中堅校を対象にした研究でも、進学中堅校と比べて進学校の生徒の学習時間が長く、進学したい大学の明確さが学習時間を増加させることが示されている(山村・濱中・立脇 2019)。濱中(2016)は、一般入試を経る進学校生徒を対象としたパネル調査により学年による学習時間の変化を明らかにした。1年生は約1.2時間、2年生は約1.3時間、3年生2学期は約3.4時間と、大学入試が近づくにつれ学習時間が増え(4)、「さぼることが絶対できない試験」が近づく3年生でようやく学習に取り組みはじめると指摘している。これらの進学校の研究では、一般入試によって大学進学を目指す生徒が対象とされており、推薦入試と生徒の学習行動に着目した分析はされていない。また、前述した中村(2011)や西丸(2015)においても、附属校推薦による進学者については、独立した分析対象とはされていない。「学習時間」は、これまでの研究において「努力の指標」(苅谷 2000)と見なされるとともに、「学習意欲」(荒牧 2002、有海 2011)を表すものとして使用されてきた。学習意欲が削がれることで、学習時間が減ることは多々あるものと考えられるが、それとは異なり、学習意欲は高いものの学習時間は短い、ことも十分考えられるのではないだろうか。そこで、附属・系属校の生徒の学習時間の長短は、彼(女)らの学習意欲の高低と直接的に結びつけられるのか、本研究では、「学習時間」=「学習意欲」とは捉えず、「学習時間」とともに「学習意欲」に関する変数を扱うことで検討を行う。その「学習時間」について、中村(2011)、西丸(2015)は、推薦入試を希望する生徒の学習時間が短いとしたが、私立大学附属・系属高校においても、系列大学への推薦入学を希望する生徒は、一般入試を受ける生徒よりも学習時間が短いのだろうか。また、私立大学附属・系属高校の生徒においても、山村・濱中・立脇(2019)が示したように、大私立大学附属・系属高校生徒の学習に関する研究 ─大学進学ルートの違いに着目して─732.先行研究と分析の枠組み
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