キーワード:国際バカロレア、批判的思考、逆向き設計、概念型学習、問い、高次思考【要 旨】本研究の目的は、国際バカロレア(IB)プログラムにおける批判的思考モデルの導出と、IB教師らによる語りから、指導場面における実態や課題を考察したり、教育学諸理論との符号を検討したりすることである。本稿では、まず、IBプログラムにおいて採用されている批判的思考に関する教育学諸理論と哲学のうち、核として組み込まれている諸理論・哲学の抽出を試みた。その結果、問いを中心とした授業を行うことを核としながら、それを支える理論として、ウィギンズ・マクタイによる逆向き設計論、エリクソンによる概念型学習、ブルームらによる思考のタキソノミー、ポールによる多重論理に基づく対話型の学びが組み込まれていることが分かった。そして、それぞれの教育学諸理論は独立して組み込まれているのではなく、問いを中心とした授業という哲学を共有しながら、相互に密接に関連し合っていることを明らかにした。次に、IBプログラムが採用する教育方法に対応させていった教師らによる指導アプローチについて、その具体的な内容を捉えることを試みた。そのために、高等学校段階で実施されるIBプログラムである、ディプロマ・プログラムの授業を受けもつ、5名の教師らに対する聞き取り調査を行った。その結果、正解が1つとは限らない問いへの応答を中心とした指導を行い、学習者同士の対話が促される学習環境を創出し、パフォーマンス評価を念頭に置きながら、知識理解と概念理解の指導バランスを図っていく重要性が示唆された。そして、教師たちの語りは、ポールやエリクソンの理論に加え、オテロ・グラエッサーが提唱した知識対立仮説とも符合していることも示した。なお、今後の研究課題として、教師たちが実践する授業の参与観察や学習者への聞き取り調査にも範囲を拡げ、批判的思考指導の教育効果の検証を実施する必要があることを示した。今日、人々が国境を越えて活動する機会が増え、多様な価値観への理解を深めることや地球規模の諸課題の解決が喫緊の課題となっている。そうした課題を解決するために、OECDが主催するプロジェクトであるDeSeCo(Definition and Selection of Competencies: Theoretical and conceptual Foundations)は、知識・技能だけでなく、態度を含む様々な心理的・社会的なリソースを活用すること、そして、特定の文脈の中で複雑な要求(課題)に対応することができる資質や能力が必要である、と提唱する。こうした資質・能力のうち、とりわけ物事を多面的・多角的に捉える力である、いわゆる批判的思考の育成について、その重要性が世界的規模で増している(Assessment and Teaching of 21st Century Skills, 2010; Partnership for 21st Century Skills, 2011; UNESCO, 1998など)。11.問題の設定国際バカロレアプログラムにおける ─教育学諸理論の関係性と教師の語りに着目して─批判的思考指導モデルの検討赤塚 祐哉・木村 光宏・菰田真由美
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