国際バカロレアプログラムにおける批判的思考指導モデルの検討 ─教育学諸理論の関係性と教師の語りに着目して─参考文献久保田淳.(2020).学習指導案との比較対応からユニットプランナーを理解するための方策と課題:教職大学院IB教員養成プログラム受講生の意識調査をもとにした一考察.国際バカロレア教育研究,4,39-49.doi:10.50923/ibjournal.4.0_39中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会.(2016).次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ.参照https://www.mext.go.jp/content/1377021_1_1_11_1.pdf(2021年9月21日閲覧)中村純子.(2019).国際バカロレアが目指す概念理解と国語科での指導の可能性:IB「言語A」PYP・MYP・DPのカリキュラム分析から.東京学芸大学国語教育学会研究紀要,15,20-29.doi:10.24672/gakugeikokugokyouiku.15.0_20中和渚.(2020).国際バカロレア・ミドル・イヤー・プログラム(MYP)数学と日本の数学Iに関する数学教科書分析:統計の内容に注目して.国際バカロレア教育研究,4,51-60.doi:10.50923/ibjournal.4.0_51成田喜一郎.(2020).第11章 多様な教育学諸理論・哲学に支えられたIBプログラム,東京学芸大学国際バカロレア教育研究会編著,国際バカロレア教育と教員養成 未来をつくる教師教育.学文社, pp. 152-161.半田淳子.(2020).第1章 国際バカロレア「言語 A」の概要・「言語 A:文学」の学習指導─新学習指導要領の「文学国語」との関連から─,全国大学国語教育学会・公開講座ブックレット⑫.国際バカロレアにおける「言語と文学」「文学」の授業から国語科のあり方を考え直す.参照https://www.jtsj.org/kouza/?action=multidatabase_action_main_filedownload&download_flag=1&upload_id=512&metadata_id=83(2021年11月15日閲覧)樋口直宏.(1998).批判的思考教授における思考技能の統合:R.ポールの理論を中心に.教育方法学て、批判的思考に関する教育学諸理論と符合していることを確認した。従って、理論的にはIBプログラムの教育方法は、学習者の批判的思考を促すと言える。しかし、本稿で明らかにした、IBプログラムにおける批判的思考モデルについては、真に批判的思考を効果的に育成し得るのか、という点については今後、精緻な検討を要する。例えば、Bloom et al.(1956)よる高次思考レベルの問いへの応答を通して、批判的思考を育成できるのか、といった点について、高次の思考には、分析、評価、創造といった項目に分かれているものの、創造の思考領域については、批判的思考よりも創造的思考の育成に寄与するのではないか、といった疑問も残る。こうした疑問について、Norris and Ennis(1989)は、創造的思考は批判的思考の育成に役立つ振り返りや事物の評価が含まれないため、学習者の批判的思考を高められない可能性があることを指摘している。一方、こうした主張を裏付ける、国内における質的・量的調査は管見の限り見当たらず、今後の検証が必要である。そして、カリキュラム設計上の教育学諸理論としての逆向き設計論と概念型学習、指導アプローチとしての高次思考レベルの問いと対話型の学びを統合した批判的思考指導モデルは、どの程度、批判的思考の向上に効果があるのかを定量的・定性的に捉える必要がある。本研究では教師の語りから、批判的思考モデルの今後の在り方について示唆を得ることを目的としてきたが、今後は事実的知識と概念的知識のバランスを教師たちがどのようにとりながら授業を進めているのかを授業観察を通して検証することに加え、学習者への聞き取り調査にも範囲を拡げ、批判的思考指導の教育効果を明らかにしたい。17
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