早稲田教育評論 第36号第1号
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力のある建物とするように務めねばならない」15と述べている。このように校舎建築に関しても、新制度下における中学校に対して文部省が注力をしようとしたことがわかるが、荒川区などの例をみても、校舎建築に関しては従来からあるものを流用した事例も多く、実際の経済事情なども影響し、文部省の手引き通りには実現することができない場合も多かった。さらに、新制中学校の教育の実際を探るための資料として『中学校・高等学校管理の手引』16(1950年)が挙げられる。同書は上述の『新しい中学校の手引』と異なり、高等学校に関しても言及されている。目次を見ると以下のようになっている。第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 現在の中等教育校長職組織と管理指導と生徒役員学校における指導計画の改善学校と地域社会同書に関しては、教員に対する手引書、その中でも管理職の教員に対する手引書であることが窺える。同書の中では中等学校・高等学校の存在については「中学校・高等学校の教育の目的が達成されなければならないものであるとするならば、校長は全力を傾けて、生徒・職員・地域社会の人々が共に相携えて、この目的の達成に向かって努力するよう、最高度の指導力を発揮しなければならない」17と述べている。この手引書の存在から、文部省は管理職である教員に対しても、新制度の中で教育の改善を図るように指導を出していたことがわかる。このように新制中学校発足期においては、多くの手引書が文部省から発行されていた。これらの手引書を見ると、当時の新制中学校の設置には、各地域が困難な状況下に置かれており、文部省側から、新制中学校の運営に際してはどのようにすればよいかを、手引書を通して指導していたことがわかる。では、実際の各地域の新制中学校の実態はどのようなものであったのだろうか。次節以降では、地域における新制中学校について、史料収集と分析結果をもとに報告する。以下の表1は研究会メンバーが東京都立中央図書館において資料調査を行い、各地域における新制中学校の実態を示した資料をまとめたものである18。表1のように各地域における新制中学校関係の資料は一定数確認することができる。本研究ではこれらの先行研究と資料を踏まえた上で、資料調査によって得ることができた中学校に残されている一次資料を使用し、戦後教育の確立と展開の過程とその実態を究明することに取り組んだ。本研究の対象地域については、東京都荒川区を中心としつつ、資料の所蔵状況を判断して、愛知県半田市・新庄市、そして、神奈川県小田原市、千葉県の一部を加えた。資料調査としては、2019年度には東京都荒川区、神奈川県小田原市、愛知県名古屋市を中心に行い、2020年度には愛2223.新制中学校に関する史料の保存状況と収集

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