キーワード:新制中学校、教育史、東京都荒川区、地域と学校の関係、戦後教育改革、教員【要 旨】本稿は、戦後の新制中学校の法的成立を受け、実際にはどのように新制中学校が整備されていったのか、また、戦後の教育改革の理念が各地域において実際にどのような形で実現されたのか、その到達点と限界を明らかにするものである。以上の目的を達成するために本研究では各地域の新制中学校を訪問して、どのような資料があるのかを調査し、その上で、各地域において新制中学校がどのような理念や制度的枠組みで成立したのか、また、その設置経緯等を分析した。本稿では資料調査や考察の成果の一部として、中学校の設置、PTA、教員に関する内容をまとめた。この他、本研究会では各メンバーがそれぞれ新制中学校に関連するテーマを設定し、担当することによって、テーマごとの考察を進めている。本研究は、戦後の教育改革によって成立した新制中学校1に着目し、すべての者に中等教育機会を保障するという理念が、各地域でいかなる議論を経て、学校の枠組みや教育内容・教育活動として実現されようとしたかを、実証的に究明するものである。戦前の義務教育終了後の学校制度は、性別や進路による複線的要素が強いものであったが、戦後の教育改革はこれらの差別的状況を改める目的で新制中学校制度を設けた。すなわち、新制中学校の制度的意図は、①すべての者に中等教育機会を保障する、②性や進路により異なっていた中等教育学校を一元化する、③義務教育年限を延長する、ことにあった。こうした意味で、新制中学校は教育の民主化と機会均等を柱とする戦後の教育改革の柱の一つであり、その背景にはすべての者に中等教育を、という20世紀における世界的な潮流が存在していた。また、本研究は、教育の機会均等を保障するための学校教育制度のあり方という今日的教育課題の原点を探るものでもあり、社会格差に起因する不登校や学力の問題など、現代の教育課題を克服する上で参考になる基礎的知見を提供することが期待される。本研究は、新制中学校の制度的理念を実現するために、設置地域でどのような教育の形態(制219はじめに1.調査の目的・意義及び先行研究の概要と調査対象・方法【研究報告】新制中学校の成立に関する実証的研究─戦後教育の諸原則の確立と展開を中心に─雨宮 和輝・長谷川鷹士・湯川 次義 奥野 武志・久保田英助・野口 穂高
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