アクターの協力によるネットワーク化という新たな発展段階に入っていることが検証できる。さらに、各アクターの支援活動にはそれぞれの特徴が見られる。官製NGOには公益的傾向があり、企業には将来の経済的利益を重視する傾向があるといった特色があるものの、資金資源に富む官製NGOや企業は物資の提供をしている。そして、教育研究や人材資源を有する文化・教育組織は、S県の教育研究や教育経験の提供に力を入れ、大学といった高等教育機関は多面的な連携を通じてS県の教育支援に参与している。具体的に、学校面での成果は次のようになっている。教育部財務司は中国教育発展基金会、中国教師発展基金会と連携し、S県の40余りの学校の土製運動場を全て改造した。また、S県の幼稚園も整備され、郷・鎮ごとに1つの公立幼稚園が設置された。23このように、児童生徒の学習環境が整っている同時に、貧困地域の児童生徒の学習の基本権利も保障されている。そして、政府のイニシアティブで全国70余りの大学が、S県の支援事業に参加した。例えば、政府は北京師範大学と連携し、ICT教育の特別研修活動を実施し、S県の教員や生徒のICT技能を向上させた。特に新型コロナウイルスが広がった時期に、専門家からの指導と支援を通して、S県の教員は、オンラインで授業準備や教材研究などの活動を行った。24こういったICTの応用によって、S県の学校教育を改革でき、またコロナという非常時期にあっても、教育の継続が保証された。また、中国移働、アリグループ、好未来、海康威視などの企業は、政府と連携し、S県で公益寄付活動を行い、遠隔教育授業システムの21セットを寄付した。このことによって、S県の小中学校の遠隔教育授業を全面的に拡大できた。25こういった遠隔教育の実施は、質の高い教育資源の共有を通じて、教育における地域的閉鎖を打破し、教育の公平性を促した。このように政府は、多様なアクターによる協力や連携を重視し、教育ガバナンスに参与させていることが顕著に表れている。中国の社会環境においても、「社会力量」がその発展に関わるパワーや可能性も示されている。貧困地域の教育ガバナンスにおいて、「社会力量」は益々重要なパワーとして参与しているのである。本稿では、まず中央政府が教育行政施策において「社会力量」の役割をいかに重視し、教育ガバナンスへの参与に期待してきのか、その経緯を中央政府の法律文書の分析から明らかにしてきた。さらに、貧困地域の教育支援における実践的な取り組みにおいて中央及び県政府がいかに「社会力量」に期待し、「社会力量」が関与することになっていったのかを、一つの県のケーススタディから明らかにしてきた。中華人民共和国は、政府の統制力の強い国と認識されている。しかし近年、政府のみならず、多様なアクターである「社会力量」が教育事業の開発や支援に参画するようになってきた。検討の結果、政府も「社会力量」の発展や教育ガバナンスへの参与を期待するようになっていることが明らかにされた。中国政府の施策が変化した背景として、中国の改革開放以降、特に1990年以降、草の根の「社会力量」が盛んになり、国内のみならず、海外の多くの「社会力量」が中国に進出してきたこと216おわりに
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