早稲田教育評論 第36号第1号
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・S県の成人教育への定点的な支援・S県の貧困学生を募集する専門計画・情報リテラシーの向上のための教師研修・企業、大学、研究機構の協力プロジェクト・コロナ時期の特殊対応さらに、中国滋根の創立者を含む関係者は国連に勤務した経歴を有し、「持続可能な開発のための教育」思想をS県に持ち込んでいる。政府が重視する「社会力量」による教育支援の内容も、第二節のテキスト分析と合致するように、この段階で物資提供から知力提供に転換してきた。持続可能な開発のための教育の発想については、先見性があった。この新しい思想の影響を受けたS県の農村には、「緑エコ文明学校」から発展して、地域全体を「緑エコ文明郷村」へと転換していく傾向が見られた。中国滋根は、新たな教授法のみならず、教育発展の先進的な理念をS県の農村地域に持ち込み、地域発展モデルの転換を促してきたのである。このように、S県の政府は、中国滋根の力を生かし、資金を誘致し、基礎教育の普及、学校施設の改善、新しい教育発展モデルの推進を実現した。ただし中国滋根は、政府の全ての指示に従うのではなく、不合理な教育施策の是正にも力を入れている。たとえば「学校統廃合(中国語で「撤点并校」20)」に関して、S県の農村小学校の統廃合を阻止するために尽力した。このように「社会力量」が、自らの独自性を発揮し、民間の意見が政府の施策に反映されていることも見過ごすことができない。つまり、「社会力量」の力の向上が、政府の意識や施策の変化に影響をもたらしているのである。21世紀に入った後、中央政府の意向を受けて県政府は「社会力量」との協力をさらに重視し、各種の力の連携を教育事業に参与させるように取り組んできた。貧困脱却を促すために、中国教育部は、大学、企業、文化教育組織などの力を統合することによって、貧困支援の協力を促し、横の協力、縦の連動、立体作戦という定点的な貧困支援を推進している21。S県はそのうちでの一つのプロジェクト県となっている。表2は、S県の教育貧困を支援するために、政府が多くの「社会力量」を活用し、各組織がその力を発揮していることを示している。「社会力量」に対する政府の意識や施策変化は、多様な出所:中華人民共和国教育部の「智を以て貧困から脱出」22に基づいて筆者作成2153 多元的な組織の連携時期(21世紀以降)参与アクター中国教育発展基金会、中国教師発展基金会、中国次世代教育基金会(中華英才基金、赤燭基金)北京師範大学、北京外国語大学、北京化学工業大学、華北電力大学、河北大学、燕山大学などの70余りの大学中国移働、アリグループ、好未来、海康威視中央電気教育館、中国教育新聞社表2 S県の教育ガバナンスにおける各アクターとその取り組み種類方式官製NGO物資提供大学連携企業物資提供文化・教育組織知力提供具体的な取り組み・運動場の改造・公立幼稚園の改造・遠隔教育授業などのプロジェクト・教育研究共同体の締結・教員派遣

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