⇔⇔めには、学習者に十分な知識量が必要であるとしている。Erickson(2008)は、知識・理解を深めるための「事実に関する問い」と呼ばれる、事実確認を目的とする問いを1単元に最低でも3〜5つ取り入れることが必要であると説明しており、概念に関する問いは最低1つ、議論を促す問いも最低1つであるとしている点を考えると、知識に関する問いのほうが多い。そして、Otero & Graesser(2001)は、知識が欠如している状態では思考は深まらず、既存の知識と新しい知識が対立状態になったときに思考が深まる、とする知識対立仮説を提唱しており、この点が教師たちの語りと符合する。今回、聞き取り調査を行った教師たちの語りは、こうした学習科学における見解とも一致する。Otero & Graesser(2001)は、学習者の知識が欠如した状態では、用語や欠損情報の確認に留まるために、思考レベルが深まらないことを指摘する。一方、学習者がもつ既存の知識と新しく学ぶ知識の間に差があると、知識が対立する状態となり、これまで当たり前だと思っていた考えが覆されることにより、思考レベルが深まることを論じた。Otero & Graesser(2001)の知識対立仮説とErickson(2008)の概念型学習モデルにおける教育方法の関係性を整理すると、以下の表8のように示すことができる(表8)。表8は、知識対立仮説と概念型学習モデルで採用されている、問いの種類との関係性を示している。学習者の知識が欠如している状態では、事実の確認に学習レベルが留まるため、思考レベルが深まらず、批判的思考につながらないこと示している。それを補完する形として、概念型学習モデルで採用されている「事実に関する問い」を行い、学習者の知識量を確保することが肝要であることを示している。一方、知識が対立する状態であれば、思考レベルが深まるため、批判的思考につながる可能性があることを示している。それを実現するために、「概念理解を促す問い」や「議論を喚起する問い」を行うことで、意図的に知識対立の状態を創りだすことを行う必要性を示している。本稿では、IBプログラムにおける批判的思考モデルの導出と、教師らによる語りの考察から、実際の指導場面における実態や課題、教育学諸理論との符号を検討してきた。特に、IBの批判的思考モデルの核となる理論や哲学についてその関係性を分析し、教師たちへの聞き取りによっ16表8.知識対立仮説と概念型学習モデルから導出する批判的思考アプローチ知識欠如の状態➡用語や欠損情報の確認に留まる※思考レベルが深まらない(批判的思考につながらない)知識対立の状態➡程度の差はあるものの、これまで当たり前だと思っていた考えが覆される※思考レベルが深まる(批判的思考につながる可能性)早稲田教育評論 第 36 巻第1号Otero & Graesser(2001)及びErickson(2008)より作成「事実に関する問い」を行うことで、欠損情報の補完を行う。「概念理解を促す問い」や「議論を喚起する問い」を行うことで、知識対立の状態を創りだす。4.2 今後の課題知識対立仮説概念型学習モデル
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