3 分析結果「社会力量」に関わる語彙や文脈へのコーディング分析の結果から、「社会力量」に対する政府の認識が曖昧な段階から具体的な段階へと深化してきたことが明らかになった。具体的に言えば、この過程には次のような特徴がある。力量」を言及する時に、「各種の教育事業に力を入れるのを促す」のような抽象的な表現が多く見られた。また、「社会力量」の基礎的な役割(物資提供)については意識されていた。ただし、それと政府、学校との相互関係並びに教育行政全体にどのように位置づけるのかについての認識は不足していた。しかし、特に21世紀以降、「社会力量」の基礎的な役割のみならず、教育事業で果たすポリシー提案、評価、監査など知力機能も、より一層重視され、政府、教育機関と「社会力量」の相互関係が新しく注目されてきた。政府は「社会力量」にある程度の自主性を認め、「社会力量」のパワーを生かし、教育の発展を促すことを目指しているのである。さらに付言すれば、国内の「社会力量」が海外に向けて教育支援を行うことを促す記述も現れるようになっている。例えば、「中国教育現代化2035(抜粋版)」(2019年)では、「グローバル教育ガバナンスに積極的に参加し、国際教育のルール、規準、評価システムの研究開発に深く関与する。国際組織及び専門機関との教育交流協力を推進する。対外教育援助メカニズムを健全化する」を9番目の戦略任務として提示されている。①政府は中華人民共和国建国後、次第に国内の「社会力量」に注目するようになった。改革開放の進行に伴い、1990年代以降、民間組織が力を持つとともに、海外の「社会力量」が流入し、政府は教育分野における海外を含めての「社会力量」の役割に注目し始めた。2010年代末以降は、国力の充実や「社会力量」の拡大につれて、政府は「社会力量」が中国国内に限らず、海外に向けて国際教育支援事業に参加することを奨励し始めた。②教育分野における「社会力量」の役割については、当初、政府は現場の物資提供の機能を重視したが、徐々にその知力提供の機能を重視した。政府が重視する機能の変化は、教育現場で働いている「社会力量」のさらなる発展を反映することができる。「社会力量」の種類が多くなると同時に、機能も細分化してきた実態を推測することができる。実態の変化に応じて、政府認識の変化を理解できるようになる。③政府の「社会力量」に対する認識は、2010年代以降、教育ガバナンスの概念が深まるにつれて、教育活動への参与を促進し始めた。さらに政府は「社会力量」を含む各組織の相互作用を総合的に考えるようになった。中国政府はその活動領域、多元的な教育機能そして教育ガバナンスにおける他のアクターとの連携を重視してきた。「社会力量」に関する政府の認識の変化の原因として、以下が考えられる。80年代以降の改革開放政策の推進に伴い、都市―農村での教育格差の拡大が考えられる。都市部では、義務教育段階、そして中等教育、さらに高等教育が飛躍的に発展したのに対して、農村部では、義務教育の普及についても、進展が緩慢であった。こうした教育格差は社会的な問題を引き起こしかねなかった。212
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