検討は、中国社会の変化経緯を浮き彫りにし、「社会力量」の発展軌跡が中国の教育支援に与える意義を解明する面で、意義深いと考えられる。そこで、本稿では、法律や政策文書のテキスト分析に基づきながら、「社会力量」が教育施策の中で、次第に重要な役割を演じるようになっていく経緯を検討し、合わせて貧困地域への教育支援において関与していく変化の諸相を実態に即して論じていく。中国では、省(自治区、直轄市)―県(自治州、自治県・市)―郷(民族郷・鎮)」の三段階の行政区画制度が「中華人民共和国憲法」(1954年)によって規定されている。このうち、県レベルの行政単位は、政治及び経済の権限を備えた末端政府である。そこで、本稿では、「県」を単位とする教育ガバナンスのあり方を見ていく。とりわけK省S県は華北に位置するが、「旧解放区、少数民族地区、辺鄙地区や貧困地区(中国語で「老少边穷地区」12)」の典型的な地域である。中華民国期には、ミッション系の教会学校や私塾が設置され、1930年代〜40年代にかけては満洲国の統治下にも置かれていた。また中華人民共和国建国後は、都市部から遠く離れ発展が立ち後れてきたが、改革開放期以降は、教育近代化が積極的に推進されてきたという紆余曲折の発展過程を経てきた。その過程においては、国内外の民間組織など多様な組織が政府の教育支援施策に協力し、S県の教育開発の事業に参加してきた。2018年10月17日、国務院の貧困支援弁公室は85の国家貧困県が、貧困状態から脱却したことを宣言したが、S県はその中の一つとなった。このように、政府や国内外の民間組織を含む多様なアクターが教育支援に協力したことで教育が発展したS県は、教育ガバナンスを研究する上のモデル地域と考えることができる。本章では、教育に関わる中央政府の指導的な法律、教育開発・支援に関する綱要、指導的文書を取り上げ、MAXQDAソフトを活用してテキスト分析を行なった(語彙及び文脈へのコーディングからの分析)。分析データには、法律9本や中央政府文書11本が含まれている。具体的には、中央政府から出された主要な教育関連法として、「中華人民共和国憲法」(1954年、1982年)、「中華人民共和国義務教育法」(1986年、2006年)、「中華人民共和国教師法」(1993年)、「中華人民共和国教育法」(1995年、2015年)、「中華人民共和国職業教育法」(1996年)、「中華人民共和国高等教育法」(1998年)、「民弁教育促進法」(2002年)がある。その他の中央政府から出された教育基本方針関連文書の中で教育支援に関わる内容が含まれているものとしては、「社会力量による学校運営に関する若干の暫行規定」(1987年)、「社会力量弁学条例」(1997年)、「21世紀に向けた教育振興行動計画」(1998年)、「国家中長期教育改革及び発展計画綱要(2010〜2020年)」(2010年)、「中国農村貧困扶助開発綱要(2011-2020年)」(2011年)、「2013年の教育総合改革の深化に関する教育部の意見」(2013年)、「教育の貧困扶助事業の実施に2072「S県」を取り上げる理由二 国家法律や政府文書から見る「社会力量」への政府の認識変化
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