一 先行研究及び研究対象の選択理由1 先行研究「社会力量」が教育領域において果たす機能に関する研究は、1990年代から始まり、次第に増えていく傾向が見られる(CNKI検索機能を利用)。とりわけ21世紀に入って以降、「社会力量」の重要性に言及した研究が多くなる。例えば、陳(2002)は、「社会力量」が学校設立・運営に参加する必要性を述べた5。また、陳(2003)は、法律で認可されている「社会力量」6が、教育領域で役割を果たす妥当性や重要性を示した7。さらに2010年以降、教育ガバナンスや行政簡素化(中国語で「简政放权」8)の視点から、「社会力量」の役割を論述する研究が盛んになっている。例えば、馬(2014)は、「社会力量」を教育ガバナンスに参与させることは、官僚体制への信頼感の危機をある程度緩和させると指摘した9。蒲(2015)は教育ガバナンスに「社会力量」を参与させることは、公共教育サービスの効率的な供給、教育公平性の保障及び政府の教育マネジメントの有効性の向上において重要な役割を果たしていると述べた10。また、史(2015)は、「社会力量」が教育の中間組織として教育評価、監査参加することによって、教育管理、学校運営や教育評価の分権化を促し、教育の質的向上に役立つことを指摘した11。テークホルダーが管理・運営に参画している。このような教育ガバナンスの理念には二つ異なる立場があり、一つは、政府中心のアプローチ、もう一つは、社会中心のアプローチである(岩崎、2011)4。中国の教育ガバナンスは政府中心型であり、「社会力量」が補助的役割を果たす形態であると筆者は考える。近年、中国で急速に発展してきた「社会力量」は教育行政の領域で政府とより緊密な関係を結び、教育ガバナンスの上で、重要なアクターとなりつつある。換言すれば、「社会力量」は、中国における教育の活性化を促し、民衆の積極性も引き出すことができるものとして、政府から期待が寄せられているのである。そのため、本稿では、まず、中央政府が教育行政施策において「社会力量」の役割をいかに重視し、教育ガバナンスへの参与を期待してきたのか、その経緯を中央政府の法律文書の分析から明らかにしていく。そして、その結果、貧困地域の教育支援における実践的な取り組みにおいて、どのように「社会力量」としての民間NGOが関与することになっていくのかを、一つの県のケーススタディから検証していく。そのことで、今後の中国における教育開発モデルを構築する手がかりを得ることが本研究の意義である。以上の課題に取り組むために、本論文では、まず中央政府の指導的な法律や文書に対して、MAXQDAを使ってテキスト分析を行う。次に分析結果を踏まえた上で、華北の貧困県であるS県における政府及び「社会力量」による教育支援の事例を取り上げ、政府の提唱する教育ガバナンスの下での「社会力量」の教育施策の関与を具体的に検証していくものとする。しかしながら、以上の先行研究は、「社会力量」の重要性は指摘しているものの、「社会力量」に対する政府の認識や施策の変化に言及するものではない。また、教育支援に関わる教育ガバナンスの実証的分析は、これまでの先行研究では、十分に展開されてこなかった。こうした課題の206
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