国際バカロレアプログラムにおける批判的思考指導モデルの検討 ─教育学諸理論の関係性と教師の語りに着目して─一方、歴史を指導するt2は、概念型学習を進める際のカリキュラム設計上の工夫を述べている。「暴力を伴う革命は、良いか悪いかみたいな。ちょっと倫理的な問いをしがちになっているときもあります。でもそうすると歴史をやってる意味がないような。良いか悪いかじゃなくて、歴史学的根拠を持って、答える、答えられるようにすることが教員の役割のような気がするので、そこを考えています」と語り、内容理解と概念理解のどちらを深めさせるのかといった葛藤を語りつつ、歴史的な根拠にいきつくような問いかけを、単元の指導計画に組み込むことを心がけていることを説明している。同じく歴史を指導するt3も概念型学習の進め方について語っている。「IBの授業に関しては、概念学習なので、ここの分野を学ぶことでどういう概念を学ぶか。つまり歴史を使って何を学ぶかってことなので、歴史の内容、コンテンツは教えるんですけども、常にこれを学んで何になるかっていうことを俯瞰して見れるような、そういう問いかけをしてますね」と語り、問いによって学習者の概念理解を深めさせる、というIBのカリキュラムの基本構造の在り方に関連する内容を語っている。教師たちの語りから、批判的思考指導にあたっては、正解が1つとは限らない問いへの応答を中心とした指導を行い、学習者同士が対話する学習環境を整える重要性が示唆された。そして、パフォーマンス評価を念頭に置きながら、知識理解と概念理解のバランスを取ることの重要性が示唆された。前者の、正解が1つとは限らない問いへの応答については、Paul(1987)の主張でもある、批判的思考を促すのは多面的な思考である、との主張とも符合する。聞き取り調査に参加した教師たちの語りからは、授業が弁証法的な対話によって進行していることが示されている。後者の、知識理解と概念理解のバランスについては、Erickson(2008)の主張やOtero & Graesser(2001)の仮説に符号する。Erickson(2008)が提唱する概念型学習では、概念理解を深めるた154.語りと学習理論との関係性及び今後の課題4.1 語りと学習理論との符号IBコース全体を統括する立場にあるt1は、逆向き設計論に関わる部分として、「ルーブリック作って、パフォーマンス評価をしていきましょうとか、そういうふうに学校全体が変わりました」と説明し、IBを導入するにあたり、カリキュラム設計の考え方自体を変容させていったことについて触れている。続けてt1は、「例えば理系の科目だったらルーブリック作ってレポートを見るとか、英語もプレゼンテーション見るとか、そういうことをやっていってるんですけど、やりきれてないっておっしゃる科目もあるんですよ」と語り、教科・科目の特性によっては、パフォーマンス評価を軸にカリキュラムを組むのが難しいことも指摘している。こうした経験からt1は、「評価を最終的な目標とするんだったら、その評価から逆向きに見たときに、どういうふうに科目の目的とつながってるのか、どういうふうに授業内容と関連しているのかっていうような、そういうコーディネーションみたいなところですね。それがものすごく大事だなと思いました。」と総括し、教科・科目の学際性を意識したうえで、カリキュラムを設計していくことの重要性について触れていている。
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