早稲田教育評論 第36号第1号
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(筆者撮影)198図5 アテニウム美術館の展示室で手を動かして色やかたちを体験する来館者たちサトゥは、ミュージアムを「教育のための場所」という認識を持ってはおらず、むしろ子どもたちが笑顔で楽しめる場であるように願っている、と語った。このように、何らかの知識や定型の鑑賞方法を伝授する場ではなく、子どもたち自身が「発見すること」を重視しており、そのうえで「本物の芸術作品に(自分との)つながりを見出」すことを目指している、と子どもにとってのミュージアム経験を位置づけた。さらにエリカは、芸術作品を鑑賞しその時代背景や作家のプロフィールに触れることで子どもが作品と自身の間につながりを見出し、「自分たちの今の立ち位置を理解し、彼らの人生に似ているものを見つける」ことができる、と芸術鑑賞が子どもにとって自らのアイデンティティを振り返る機会として機能することを指摘した。そのうえで、子どもがミュージアムで美術作品と出会うことの意義について、次のような見解を述べた。 S-1: 子どもたちの経験の意味については不確かですが、子どもに楽しんでほしいと願っています。そう、笑顔で来てほしい。それは、とても重要なことだと思います。教育のための場所、これを学習しなければいけない、というのではありません。私たちは彼らに、発見することを印象に残し、彼らがどこに来たのかを理解し、本物の芸術作品に(自分との)つながりを見出し、少なくとも、家に戻ったときに一つの作品のイメージが彼らの頭に浮かぶことを願っています。 子どもたちが古い芸術作品に触れることで、自分自身の生き方にも触れることになります。E-1: 私はとくに、フィンランドの古い作品や歴史ある作品は、子どもたちにある種の歴史を理解させることができると考えています。彼らは、その歴史や歴史的建造物、絵画や彫刻のストーリーなどを通じて自分たちの今の立ち位置を理解し、彼らの人生に似ているものを見つけることができます。E-2: これは個人的な意見ですが、私から見ると、子どもたちは美術を経験すると「人間と

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