上記のように、子どもの主体性や自主性を尊重し、子どもの可能性を狭めずに機会を提供することこそが重要である、とミンナは主張した。また、子どもの時期にアートに触れることによって、子どもたちの創造性や想像力に働きかけることが可能となり、それは大人になってからでは得られない点であると、以下のように指摘した。2人の発言からわかるように、国立現代美術館キアズマでは、子どもの来館を非常に重要視していた。T-2でトゥーヤが語ったように、ゆるやかな狙いとして「新たな(未来の)来館者層を育てたい」という目的を挙げたものの、M-3でミンナが「そのためだけに子どもの来館を奨励しているわけではない」と付言した。ミンナは、子どもの時期にアートに触れることが非常に重要な意味をもつ行為であり、この時期に来訪することは子どもたち自身にとっても、彼/女らを迎える美術館にとってもとても意味のあることである、と語った。このように子どもの来館を妨げず、むしろ積極的に来訪するための働きかけを行うことで、ミュージアムの新たな来館者層獲得や社会におけるミュージアムの存在意義の発信につながる、という前向きなサイクルの実現を目指す姿勢が伺えた。さらに、上記のように幼いうちからアートに触れ、芸術を話材として批判的思考や自己の考えのアウトプットの機会を設けることは、異文化理解の素地を養うことにつながると推察された。国立アテニウム美術館では、現代美術館キアズマに比べてフィンランドの歴史的な美術作品を多く所蔵している。企画展に合わせたギャラリートークのイベントのみならず、予約不要で子どもも大人も参加可能な「土曜日ワークショップ(“SATURDAY WORKSHOPS”)」36が毎週開催されるなど、芸術を身近に体験できる機会を積極的に設けている。また、展示室内に手で触れられるハンズ・オンのスペースを設置するなど、子どもも大人も気軽に楽しめる工夫が各所に施されていた(図5)。「子どもたちにとって、ミュージアムでの経験がどのような意味を持つか」という質問に対し、同館の教育普及責任者のサトゥ(以下S)とECのエリカ(以下E)は次のように語った。197② 国立アテニウム美術館T-2: (フィンランドでは)私立のミュージアムであっても、子どもは無料にしているところがほとんどです。なぜなら、子どもたちが若者に成長したときに、ミュージアムで学ぶために訪れることを期待しているためで、つまり新たな来館者層を育てたいからです。M-3: 1歳や2歳、5歳の時期は子どもにとって非常に重要です。子どもが美術館に来る価値は、将来の納税者だからとか、将来の来館者になって欲しいためだというということだけではないのです。(幼い時期に美術館を訪れる)その価値は、子どもであるということです。大人になってからでは、その価値は得られません。彼らが子どもであるという理由で、(美術館にとっては)非常に重要な来館者なのです。
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