早稲田教育評論 第36号第1号
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194このような取り組みが可能な背景として、フィンランドでは子どもたちとアートとの出会いの場を設定することは極めて重要であるという、社会的な共通認識があると推察される。また、ATCがフィードバックのデータとして、引率の教員やミュージアムスタッフではなく、当事者である子どもたち自身から積極的にデータを集め、率直な意見からATCプロジェクトの効果を測定している点も特徴的であった。以上のように、大人が絶対的なイニシアチブを取ることが前提ではなく、子どもたちの声を積極的に取り入れる姿勢、もっと言えば子どもを庇護の対象としてのみならず一人の主体としてその人格を尊重しながら接する姿勢は、学校やミュージアムという組織の枠組みを超えたフィンランドの教育現場における共通認識であると言える。この点は、次章のインタビュー結果(M-2)にも表出しているので、後述する。3章では、多様な価値観を認め合うという点で多文化共生を実現しているフィンランドの国立ミュージアムを対象とし、実際にどのような展示や学習プログラムが行われているのかをエデュケーショナル・キュレーターへのインタビュー調査より明らかにする。筆者は、2017年9月にフィンランドへ渡航し、現地のミュージアムを約10ヶ所訪問した。本章では、現地で実施した2館(アテニウム美術館と現代美術館キアズマ)へのインタビュー調査、4名(表1)へのインタビューデータを分析し、フィンランドのミュージアムが学習や多文化共生をどのように位置づけているのかを明らかにする。インタビュイーの選定については、フィンランドのヘルシンキ市内のミュージアムのうち、より多くの来館者を受け入れている国立の大規模館を対象として調査依頼を行う目的的サンプリングを採用した。筆者がコンタクトを取り、インタビュー調査に応じてくれた調査先のミュージアムを、表1に一覧として示した。本調査では、ミュージアムの教育・学習に関する取り組みについて尋ねるため、主にエデュケーショナル・キュレーター/教育学芸員(Educational Curator:(山内・森2013『ワークショップデザイン論 創ることで学ぶ』p.183より転載、一部改訂)3.ミュージアムの取り組み3.1 インタビュー概要図3 チクセントミハイ(1999)の創造性システムモデル

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