早稲田教育評論 第36号第1号
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190本節では、フィンランドの文化事業について、政府文書や法令、全国規模で展開されているプロジェクトを参照しながら、どのような特徴が見られるのかを述べる。フィンランド博物館協会(Finnish Museum Association)16によると、同協会は2021年9月現在213の会員(組織)を有し、418館のミュージアムによって運営されている。フィンランドのミュージアムの特徴として、一つの行政組織の管轄するミュージアムのなかに実際にはいくつかのミュージアム・ユニットが含まれることが多く17、管理者と施設数の数は必ずしも同数ではない。フィンランドのミュージアムは教育文化省(Ministry of Education and Culture)によって管轄され、教育文化省に承認されたミュージアムには、毎年国家予算の決められた範囲で補助金が交付されている18。ここで、フィンランドのミュージアム事情を概観するために、ヨーロッパミュージアム統計委員会(European Group on Museum Statistics: EGMUS)が2004年に発行した「ヨーロッパのミュージアム統計の手引き(A Guide to European Museum Statistics:以下、欧州ミュージアム統計)」19よりフィンランドの項目を参照する。欧州ミュージアム統計によると、フィンランドではミュージアムの定義について、ICOMによる定義が一般的に受け入れられている。しかし、ミュージアムの設立、すなわちミュージアムの名称を名乗る権限については、いかなる種類の公式許可も必要ない。現行の博物館法は、ミュージアムに対する国家補助の割合を規定しているが、その概念は定義されておらず、各館が行う業務の目標と目的を定めている20。フィンランドのミュージアムの分類は、年次統計のなかで国立(State)、市立(municipal)、私立(private)の3種類に分けられ、私立博物館とは財団や協会によって運営されている館のことを指す。やや古いデータではあるが、2001年の年次統計によると全国301か所のミュージアムの内訳として、49%が文化歴史博物館(cultural-historical museums)、25%が各種専門博物館(specialized museums)、20%が美術館(art museums)、6%が自然史博物館(museums of natural history)であった21。館種の定義が異なるため明確な比較は難しいが、これらの割合は日本の博物館の内訳(歴史博物館58%、美術館19%、科学博物館8%:平成30年度 文部科学省「社会教育調査」より)とよく似ており、全体の設置館数は日本より大幅に少ないものの、その館種別の内訳は近しいと言える。以上、フィンランドのミュージアムに関する概況を提示した。近年の動向について、教育文化省は2030年までに国内のミュージアムをヨーロッパの中で最も先端的(up-to-date)なミュージアムにするプロジェクト、「ミュージアム・ポリシー・プログラム(Museum Policy Programme)」22に取り組んでいる。同プロジェクトのなかで、ミュージアムは「文化的、社会的、生態学的に持続可能な社会の構築、および幸福の促進において重要な役割を担っている」23と位置づけられ、社会における重要性を確立するとともに、積極的な活用が期待されている。このように、国家レベルにおいてもミュージアムを重視しているフィンランドの先駆的な事例を分析することは、これからの日本のミュージアムを考えるうえで有用である。では、現地の子どもたちは実際にミュージアムを訪問した際に、どのような施設を訪れ、どん2.2 教育文化省とミュージアム

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