RQ2:RQ1を踏まえ、対面式のEMI(SS型)におけるタスクとの違いやその特徴は何かページや論文などのリンク共有が容易になったこととも関連するだろう。教科書に加えて、資料の授業内外での活用が増えたことに伴い、資料の役割が対面式EMIよりも大きくなったと言えるだろう。しかし、その資料がオンライン授業内で教科書に代わる主たるものか補足的なものか、どのような位置づけとなっているのかは学生視点からのインタビューでは十分に特定できない情報であり、教員視点のデータが裏付けとして求められる。2点目の教員の働きかけであるが、これは「先生」をキーワードとするタスク記述文が多かったことに由来する。あくまでタスク記述文上でのことであり、必ずしも従来は教員の働きかけが限定的であったことを意味するものではない。しかし、考えられる理由としてはオンラインという授業形態になり、授業内での指示や活動の意図をより明確化させる必要が生じたが故ではないだろうか。事実、インタビューでも「先生がずっと喋ってる感じで、なんか先生もたまに問いかけとかしてたんですけど誰も答えなかったので、一方通行みたいな感じになっちゃってました。(E)」や「ほんとは、何か、『終わったら、英語で自由にしゃべっててください』みたいに言われてるんですけど、実際はそんな感じでみんなミュートにしちゃうので。でも、これ、対面だったら何かしら喋ってたんじゃないかなとは思いました。(H)」といった場面が言及されており、一概に比較できるものではないが、このような相手が存在しているにも関わらず無反応を示すというのは対面授業では想像し難い状況である。これは裏を返せば、どこにいても容易に相手とコミュニケーションを図れると同時に、教員からの指示などが無ければ容易に相手とのやり取りを断つことができてしまう脆さも兼ね備えているという、先行研究とはまた異質のスピーキング不安(Kudo et al., 2017)や異なる言語的パフォーマンスのあり方(松村,2020)が想起でき、教室とオンラインにおける一種の授業空間または空間認識の異なりを示唆しているとも考えられる。今度は対面式EMIかオンラインEMIかという授業形態の差(表8)に着目し、両形態のEMIに共通するタスクと対面のみに確認されたタスクを比較した結果、読みの画一化、ノートの役割、ペア活動の機会といった3点が特徴として挙げられる。1点目の読みの画一化であるが、オンラインEMIのタスクでは教科書の読解に関するタスク(4, 5, 6)が本学科のEMIでは従来よく経験されると捉えられていたタスクなのにも関わらず、オンラインEMIの文脈では複数の読みを駆使して教科書に取り組むという意識的な言及が限定的であった。一方、表7で新たに抽出された「資料」の読解でも2種類しか記述文がなく、考えられる理由としては、課題の多さにより複数の読みを駆使する余裕がなかった可能性も考慮できる。勿論、必要に駆られればそれに応じて学生も複数の読解を無意識的に駆使していたのかもしれないが、それ以上に「課題」の多さがコードでも目についた。事実、資料2で示したように5つの場面分類に基づきコーディングしたものの、本研究が対象とするオンラインEAP/EMIでは場面の区切れが明確ではないため主な分析対象とはしなかった。しかし、全124の抜粋の内、全体の45%に相当する56の抜粋が「課題」という1つのコードで占めていたことと無関係とは言えないだろう。膨大な量の課題故に学生が課題を「こなす」ように取り組んでいたのであれば、多様な読解を意識する余裕が生じにくいのは十分に首肯できる。177
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