早稲田教育評論 第36号第1号
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は、カリキュラム設計上の関係性を示し、横の関係は指導アプローチの関係性を示している。そして、ぞれぞれの理論は独立したものではなく、互いに問いを中心とした授業という哲学を共有しつつ、密接に関連し合っている状態を表している。前節では、IBプログラムにおいて核となる批判的思考理論を明らかにした。では、DPで授業を実践している教師たちは、普段、どのようなことを感じながら授業を実践しているのだろうか。本節では、DPの授業を実践している5名の教師へのインタビューでの語りを基に、前節で導出した指導モデルを実施する上での課題を検討する。5名にインタビューイーとして依頼した理由は次の通りである。それは、DPを指導している教師たちは、既存の授業アプローチから批判的思考指導を軸とした授業へと転換を図った者たちであり、様々な困難・葛藤、認識の変化があったと思われるからである。そして、国内の高等学校では、批判的思考指導に関する実践例が限られており、DPの授業を実践している教師たちの語りを捉えることで、今後の批判的思考指導の方策を検討できると考えたからである。調査では、IBプログラムが採用する教育方法に対応させていった教師の意識と、その具体的な内容を捉えることとした。調査方法として、個別による半構造化インタビューを採用した。質問内容は、第2節で抽出した批判的思考モデルに基づき、問いを中心とした授業に対する考え、高次思考レベルの問いや、対話型授業、逆向き設計論や概念型学習に関する考えを問う内容とした。調査実施にあたり、既存の授業アプローチとIBプログラムにおける授業アプローチの両方について指導経験のある教員を対象者として選定した。そして、既存の授業アプローチとの比較にあたっては、2010年改訂学習指導要領に基づく比較を行う必要があることから、日本の学校教育法第1条に定める高等学校に勤務する教員を対象とし、学習指導要領に基づかない各種学校扱いである国際学校(インターナショナルスクール)は分析の対象から除外した。すなわち今回の研究対象者は、①現在DP実施校に勤務する高等学校教員で、②学校教育法第1条に規定される学校に所属し、③DP実施校に勤務する前まではそれ以外の学校にいた教師、④比較的最近まで既存の授業アプローチを試みていた教師、という4つの条件を満たす者とした。2021年9月現在、学校教育法第1条が定める高等学校のうち、DP実施校は35校である。そのうち、インタビューの録音を許可された4校の教師5名を対象とした。5名は全員、DPを指導する上で必須となる指導資格(サーティフィケート)を保有している。調査は、表7に示す5名への承諾を得た上で、対面によって実施した。本研究の目的と個人情報保護について、勤務校や個人が特定されないことを説明し、自主的な参加として回答してもらった。なお、聞き取り調査の所要時間は一人あたり20分〜25分である。データ取集にあたっては1対1によるインタビュー12早稲田教育評論 第 36 巻第1号3.IBプログラムにおける批判的思考指導の実際─教師の語りから3.1 調査方法と調査対象者及び質問項目3.2 調査対象者の属性とデータ収集上の手続き

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