授業を捉える際にも意味合いが異なり得るという研究者側の意識が肝要である。このことを踏まえ、本研究では2020年度に早稲田大学教育学部英語英文学科で実施されたオンラインEAPおよびEMIを受講した学生の経験に着目し、タスクの観点からニーズ分析の手法を用いて実際にどのようなタスクを経験したか明らかにすることを目的とする。これにより対面かオンラインかといった二分法による授業形態の垣根を超え、総合的な見地に基づいてEAP/EMIに関して議論を重ねていく上での素地となるだろう。本章では第一にこれまで実施されてきた早稲田大学教育学部英語英文学科におけるEAPおよびEMI研究を概観する。第二にオンライン授業の分類と本研究の着想となったタスクを軸にしたニーズ分析の重要性について述べ、本研究がオンラインEAP/EMIでニーズ分析に焦点を置くための定位とする。なお、これまでの先行研究に倣い、以降の「本学科」は教育学部英語英文学科、「学生」は教育学部英語英文学科に所属する学部学生を指すものとする。2016年のカリキュラム変更(Harada, 2017)以降、本学科で蓄積された研究は(1)授業種、(2)立場、(3)研究対象・アプローチという3つの軸で大別することが可能である。EAPに関しては、EMIと比較して数が限られているものの、Orii and Wake(2018)が教員の立場から導入科目の運営に関する実態をまとめている。松村(2020)および守屋・松村(2021)では学生の立場から1年次学生100名以上の認識についてアンケートやインタビューなどで多面的に調査している。興味深い点としては、これら3つの研究全てが学生・教員双方のサポートが重要だと指摘していることである。具体的には、Orii and Wake(2018)は教員から学生へ働きかけるサポートと教員同士の協働による2種のサポートについて言及しており、松村(2020)および守屋・松村(2021)では学生の自己評価の低さがどのような困難に由来するのかを明らかにした上で、その困難に対応するサポートの具体案についても論じている。このようにEMIの前段階であるEAPの時点で既に何らかのサポートが必要とされているということは疑いの余地がないことである。しかし、どのような形であれ実際にサポートを行うための判断材料となる情報が不足していてはサポートも満足に提供できないため、この点においてEAPでもニーズ分析によりタスクの情報をまとめることは学生・教員双方にとって意義があることと言えよう。一方、EMIの研究は教員側からの研究が2例(Harada & Moriya, 2020; Sawaki, 2016, June)なのに対し、他の8例は全て学生を対象とした研究である。この8例のアプローチごとの内訳としては、学生のスピーキングや語彙といった言語能力に関する研究が2例(Suzuki et al. 2017; Uchihara & Harada, 2018)、学生の不安や動機づけといった学習者の認識に関わる研究が3例(Kudo et al., 2017; Sugita McEown et al., 2017; Suzuki et al., 2018)、言語使用の実態やその変容を扱った研究が3例(村田他,2017,2018,2019)となっている。全体的な傾向としては、守屋・松村(2021)でも言及されていたが、学生と教員間でEMIに対する期待やそこから生じる授業への参与に認識の齟齬があることが特徴として挙げられる。つまり、異なる専門分野のみならず1672.先行研究2.1.早稲田大学教育学部英語英文学科におけるEAP/EMI研究
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