早稲田教育評論 第36号第1号
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国際バカロレアプログラムにおける批判的思考指導モデルの検討 ─教育学諸理論の関係性と教師の語りに着目して─うな指導形態を提案した。なお、前述の遠藤(2020)は、「『概念的理解』は、『逆向き設計』(G. ウイギンズ,J. マクタイ)においてもカリキュラムを設計する際の中心要素の1つである」(p. 244)とあとがきで指摘し、後述する逆向き設計論と深い関係にあることを示している。③ ポールの対話型の学び概念型学習を提唱したErickson(2008)は、Paul(1987)が示した、問いを中心とした批判的思考を深める対話型の授業形態を支持しており、概念型学習の根底にはPaul(1987)の考えが援用されている。Paul(1987)は批判的思考を促すのは多元的な思考であり、一元的な思考よりも多元的な思考指導を行うことを強調する。一元的な思考とは、正解が1つであり、一定の手続きを踏んで答えを確定する思考プロセスであり、Paul(1987)はこれを一元論理と名付けた。他方、絶対的な正しい答えはなく、多様な準拠枠から概念の解釈を試みるプロセスを多元論理と名付けた。そして、多元論理に基づきながら、対話的かつ弁証法的な思考に基づき探究することで、批判的思考が育成されるという立場をとっている。対話的な思考とは、「異なる観点や枠組みの間での対話もしくはやりとりを伴う思考」(樋口,1998,p. 43)であり、弁証法的な思考とは「対立点を取り上げ、互いに議論し、さらなる反論を生み出す思考」(樋口,1998,p. 43)である。こうした2つの思考の中心となるのが、教師による問いであり、Paul(1987)は問いによって対話的な議論が自然発生し、その結果、批判的思考を形成する、との立場を取っている。④ 逆向き設計論なお、第1段階では、学習の鍵となる問いを設定することとし、その問いは物事の本質に迫9Erickson, Lanning and French(2017)の訳者である遠藤(2020)は、概念型学習の特徴として「探究をベースとした帰納的指導で、学習者が『事実』を理解し、基本的な『技能(スキル)』を 身につけるレベル(低次思考)から、それらを活用し『概念』のレベル(高次思考)で深く考えることができるよう綿密に計画され、概念的思考の育成を図る」(p. 245)ものであると訳本のあとがきで説明している。すなわち、Erickson(2008)が主張する概念型学習とは、Bloom et al.(1956)による思考のタキソノミーを念頭に置き、概念というフィルターを通して、学習者自身がクリティカルな視点で物事を検討する、という編集方法を採用する教育方法論であると言える。IBの批判的思考モデルでは、Wiggins and McTighe(2005)が提案する逆向き設計論の考えにも依拠している。逆向き設計とは、「指導を行った後で考えられがちな評価を先に計画する点、また単元末・学年末・卒業時といった最終的な結果から遡って教育を設計する」(Wiggins & McTighe, 2005, p. iv)とする考え方である。McTighe and Wiggins(2013)は、逆向き設計論に基づき指導計画を作成する場合、4段階のプロセスを踏んだ上で、作成を行う重要性に言及している。4段階とは、授業で求められている結果あるいは目標を設定し(第1段階)、それが達成できているかどうかを確かめる評価方法を設定し(第2段階)、目標と評価に対応する学習活動・内容と指導方法を計画し(第3段階)、ミクロな単元設計(単元の指導計画等)とマクロな指導計画(年間の指導計画等)を往復させることでカリキュラム全体の改善を図る(第4段階)、とする一連の過程である。

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