早稲田教育評論 第36号第1号
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していたことが窺える。職員の離職については、蘇南の民教館にも同じ傾向が見られる。例えば、鎮江民教館は1931年時点で働いていた29名職員22のうち、1936年になって残っていたのは5名しかいなかった23。民教館の取り組みに力を入れた江蘇省でさえ大量の離職が生じたことから、全国の民教館の職員状況がどのようなものであったかは想像に難くない。1929年、教育部は社会教育の経費を教育経費の1〜2割にすると規定した。しかし地域ごとに教育経費は異なるため、各民教館の間での経費の差が顕在化した。例えば、年間経費については、蘇南に位置した省立南京民教館は56,000元、省立鎮江民教館は48,000元であった24。それと比べて、広大な管轄地域を有する徐州民教館の年間経費は40,000元で、同じレベルの省立民教館より経費が少なかった。また、周年記念特刊によると、具体的に経費をどのように支出するかについて、約5割の支出は職員たちの人件費であり、実際に事業を行うための事業費は3割未満であった。このことは事業の展開に支障を生じさせる場合もあった。例えば、1932年には、徐州民教館では農事実験を行っていたが、経費の不足によって事業は1933年に中止せざるを得ない状況になっていた。以上のように、徐州民教館は、兪慶棠を初めとする準備委員らの努力によって2年間にわたり漸く開館された。徐州民教館は、「省立」並みに相当多くの事業を展開し、そして江蘇省立教育学院や江蘇省立師範学校の卒業生など、優秀な人材を集めた。しかし職員の流動は大きく、ベテ130全年経常費支出:40,000元人件費:19,200元(48%)弁公費:7,992元(20%)雑費:2,812元(7%)事業費:9,996元(25%)出典:「本館之組織行政経費及設備」25より 筆者作成早稲田教育評論 第 36 巻第1号表4 徐州民教館の経費支出文具:2,400元弁公費:666元郵電:792元購入:2,952元消耗:1,848元修繕:1,132元雑費:243元旅費:840元雑支:840元出版:3,420元事業費:833元実験:2,496元指導:1,980元宣伝:600元展覧:1,500元毎月経常費支出:3,333元人件費:1,600元(48%)文具:200元郵電:66元購入:246元消耗:154元修繕:94元旅費:70元雑支:70元出版:285元実験:208元指導:165元宣伝:50元展覧:125元(20%)(7%)(25%)3.経費支出

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